僕は人間でないらしく













ある日、メルティオーレと名乗る不審な美少女が現れ,倫太に告げる。 「あなたは、人間ではありません
同じクラスの、通称“バイオレンスJK”狛江さくらと共に倫太は謎の解明に乗り出す。 「人間じゃなければ何なんだ!?
そして明かされる出生の秘密と過去の誘拐事件の真相倫太とさくらの、熱く激しい戦いが、ここに始まる!

番外編

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【番外編】祖母は尋常でないらしく(2)


半端じゃない……
そして、尋常じゃない……

狛江さんの発したフレーズから、思い当たることがあった。
僕もまた、テレパシー的なアレで、狛江さんに訊いてみた。

(狛江さん。おばあちゃんと、どこで会ったの?)
(『ガラマサ』――
親父に、予約した牛肉引き取って来てくれって頼まれたんだ)
(どうしてそんなところで!?)

『ガラマサ』は、二四時間営業の業務用スーパーで、我が家からは駅を越えて二〇分ほど歩いた場所にある。

電車で一時間もかかる町に住んでるおばあちゃんと狛江さんが、どうしてそんなところで出会うことになったのか、まったく経緯が分からなかった。

でもまあ、それは後で聞けばいいとして……

(まあいいや。狛江さん、おばあちゃんから、どんな話を聞いたの?)
(えーと、大学でガン◯ムの富◯監督と学生運動したりとか……) 

(子供の頃サインを貰った川上◯治が、いかに嫌な人間だったかって話は?)
(あー、聞いた聞いた。でも知らなかったなー。東京ド◯ムが、ジャイア◯ツの攻撃の時だけ空調をイジってホームランが出やすくしてるって噂、本当だったんだな―)

その話が出たということは、おばあちゃんは、少なくとも、持ちネタの三分の一まで話したということになる。
そこからまた学生時代の話に戻って、ガン◯ムの原案を考えたのは自分だと主張しだしたら、三分の二。

僕はまだ聞いたことがないけど、父さんによると、そこから更に三分の一が残っているのだそうだ。
ちなみにその内容は、教えてもらえなかった。

もっと聞きたくて僕がぐずると、 
『知らなくていいよ!』
と、横から母さんが吐き捨てるように言って、その時は、それでおしまい。

ちなみに母さんは、おばあちゃんと仲が悪い。
まあ、言うまでもないことなのかもしれないけど……
 
 「それで美津子さんの教えた内容が元になって、ザンボッ◯3が作られたと。あ、ちょっと家に電話かけてきますね」

狛江さんが中座したタイミングで、おばあちゃんに訊いてみた。
ねえ、おばあちゃん……

「狛江さんのこと、結構、気に入った?」
「気に入ったよ? だって、いい子じゃない」

やっぱり、そうか。
おばあちゃんの『
ガン◯ムの原案を考えたのは自分だ』という主張だけど、ごく稀に『ガン◯ム』が『ザンボッ◯3』に変わる――そしてそれは、おばあちゃんが相手を凄く気に入った場合に限られていた。

「あーあ。レイコも和也くんなんかじゃなくて、リョウタくんと一緒になれば良かったのに……」

出た。
(出ちゃった……おばあちゃんの、父さん下げ)
おばあちゃんは、父さんよりも、狛江さんのお父さんのリョウタくんを気に入っている。

それは母さんの学生時代からずっとだそうで、それが、母さんとおばあちゃんの不和の原因のひとつらしい。

父さんに野球を教えたのは、おばあちゃんだ。
おばあちゃんは、父さんの入ってる少年野球のチームの監督をしていた。

その頃から、おばあちゃんの父さんに対する評価は、かなり低かったんだそうだ。
技術とか才能とは別の――ぶっちゃけ、人間性の部分で。

母さんが、いつか言ってた。
『思うんだけどさ、あのババアがパパを鍛えまくったのは、アタシから引き離すためだったんじゃないかな……野球でスターになれば、アタシ以外の女とくっついて、離れていくんじゃないかって……』

おばあちゃんが、言った。
「でも、さくらちゃんが
倫太くんと結婚すれば、同じだね
と、にこり。

『同じじゃねえよ、ババア』――この場に母さんがいたら、きっとそう言ったに違いないと思うと、なんだか胃が痛くなってくる僕だった。

 

【番外編】祖母は尋常でないらしく(1)

今日は日曜日だ。

風がさわさわ、小鳥がチチチ。
爽やか極まりない朝だった。

母さんは、日ハムとビジターで対戦する父さんを追っかけて北海道だし、ヒカリは最近出来た恋人の家に入り浸りだから、家には来ないだろう。

コトリが来たらウザいので、僕は、散歩に出かけることにした。

それが、間違いだったのかもしれない。

公園で缶コーヒーを飲んでたら、徹夜で遊んだ帰りらしいリア充大学生軍団に絡まれて、その中の非常に豊満な身体を持つ女性が、やたらと僕に胸を押し付けてくるのに対し、

「やめ、やめて……やめろよ! デブ!」

と、思わずストレートな発言をしてしまったところ、女性の彼氏らしき男が激怒し、公園の外に停めてた車に乗り込んだかと思ったら、そのまま柵を破壊し公園の中にまで乗り込んできて、推定時速30キロ程度のスピードで、僕は跳ねられてしまった。

朦朧とした意識で、

「どうする、これ」「まだ生きてるべ」「捨てるか」「山だな」「山だな」

などといった会話を聞きながら車に載せられ、山に運ばれ、県境になってる辺りの崖から、

「「「「「ばいば~い」」」」」

と捨てられてゴロンゴロンと転がり落ちる途中で気を失い、崖底近くの木の枝に引っかかった状態で意識を取り戻したら、もう夕方になっていた。

「いてててて……ただいまー」

家に帰り、誰も居ないはずだけど、一応あいさつして中に入ると、狛江さんがいた。
まあ、それはいい。

狛江さんに 家の鍵を渡したりした憶えも無いんだけど、まあ、それもいいだろう。
だって、狛江さんは僕の彼女なんだし。

問題は……

「お、おかえりー」
狛江さんの声に含まれた緊張と、

「……お帰り」
彼女と、向き合ってソファーに座っている人だった。

その人は、学生時代の母さんをガラスの灰皿で殴りつけてKOしたり、あるいは、プロ入団後3年連続で打率8割を記録し天狗になっていた父さんを三球勝負で破り、野球への初心を取り戻させた人でもあった。

その人は、僕の……

「おばあちゃん、来てたの!?」
「おお。きたよお。倫ちゃん」

……おばあちゃんなのだった。

<<すげえな、三上くんのばあちゃん>>

テレパシー的なアレで、狛江さんが話しかけてきた。
前回の戦闘の後から、変身しなくても使える様になった能力だ。

<<半端ねえな。尋常じゃねえよ>>

【番外編】やつは人間でないらしく

スェーデン人だと思ってた母が、実はフィンランド人だったと知ったのは、16歳の時だった。
学年でいうと、高校1年の3月30日のことだ。

半年ぶりに会った姉が
『え、オマエ知らなかったの?』
的な表情とともに漏らしたのである。

姉は3月31日生まれで、俺は4月1日生まれだ。

4月1日生まれということは、学年で一番最初に生まれたということになる。
正直、中学2年くらいまでは、そのアドバンテージでかなり楽をさせてもらったし、そこまでで稼いだポイントと勢いで、中学3年以降も楽勝だった。 

だから、わかるのだ。
 3月31日生まれ、すなわち学年で最後に生まれるということが、どれだけ不利なことなのかが。

姉とは、両親が離婚した小学3年生の時以来、別れて暮らしている。
離婚の原因は、父が脱サラしてラーメン屋を開きたいなどと言い始めたからだ。

「父さんは、地元でも有名なバカ学校出身の低能で、暴走族のメンバーだったくせに高校を中退もせずのうのうとと卒業出来たくらいの気合の足りない根性なしだったんだから、人に使われる立場でいるのが一番の得策だよ。大体、30歳を過ぎてラーメン屋で修行を始めるとか、これまでの職歴を捨てるとか大変に決まってるし、そんなバカの子供でいさせられる僕たちの方が、その何倍も大変だ」 

などと、正論ではあるが、だからどうしたとデコピンしてやりたくなるウザイ主張をわめいていた当時の俺が、両親を面倒くさい気分にさせ、離婚への意思を固めさせた可能性は、非常に高いと思う。

両親が離婚して以降も、姉とは時々会っていた。
そしてある時から、会うたびに不良少女的な言動と顔つきになっていく姉を見るたび、僕、おっと俺は、3月31日生まれの困難さに思いを馳せずにはいられなかったのだった。


そして、今日――高校1年の3月30日。
姉と同居して、彼女と同じ学校に通うことになった僕を、姉とぼ……俺の共通の幼なじみたちが、決してささやかとはいえないパーティーで歓迎してくれた。

場所は、姉の彼氏の家。
なんと、姉に彼氏ができていたのである。

姉は、金髪碧眼の美少女だ。
だから異性同性問わずにモテても、不思議ではない。

しかし、それにしても……僕の心のなかに生まれた抵抗感は、決して、姉を取られたことへの嫉妬心からなどではない。あくまで、不可解な事象に対する、疑念から生まれたものなのだと断言しよう。

だが、それなのに……現実は無慈悲で残酷だ。

姉の恋人の父親は大リーガーで、日本にはいない。
父親に伴って渡米した母親も、向こうで通いだした総合格闘技の道場でスカウトされ、世界最大の格闘技興行として有名な某イベントのメインイベンターとなり、無敵のチャンピオンとして王座防衛の記録を作り続けているのだという。

パーティーが始まってしばらくたち、姉が席を離れるまで、俺は会場となってる家が、ついさっき紹介された、頼りない、自分のことを『僕』だなんて呼ぶ、可愛い顔をしたオカマ野郎のものだというくらいの認識しかしていなかった。

姉と、そのホモの女役との関係性については、まったくのノーチェックだったのだ。
それでもパーティの話題が途切れた時に、

「ねえ、三上くんって、どういう人なの?」

と訊いてみたのは、姉の後を追うように、ともとれるタイミングで彼が席を離れたことに、違和感を感じたからなのかもしれない。

僕の問に、幼なじみたちは顔を見合わせて笑顔を見せた。
はにかんだような、答えは簡単なのに、それをどうやって伝えたらいいのかに迷ってる、といった表情だった。

代表して答えてくれたのは、幼なじみの中でも1番のイケメンの蒼士君だ。

蒼士君が、話してくれた。
彼――三原倫太君の家族の事や、彼が学校の生徒会で副会長を務めていること。
それから……

「ちょっと、トイレ」

現実は、無慈悲で残酷で容赦無い。
それから目を逸そうとする者に、手を緩めること無く追い打ちを仕掛けてくる。

トイレの前で、僕は聞いた。

誰かがえづく声と、おそらくその背中をさすっているのだろう布同士の摩擦音。
それに続く、トイレの中の2人の会話。

「大丈夫?」
「うん……ぜんぜん平気」
「頑張り過ぎないでね? 生・徒・会・長」
「やめろってば、その呼び方」
「始業式の挨拶、期待してるから」
「おう……そっちこそ、入学式のスピーチ、失敗するなよな」
「ふふ……わかってるよ。会長」
「だから、その呼び方、やめろって」
「じゃあ……さくら?」
「それも……変な気持ちに、なっちゃうから」
「好きだよ。さくら」
「ばか……やめろって……んぅ、」

更にそれに続く、ギャルゲから引っこ抜いた様な音声。

「ん…んく、ちゅ……ん。あは、あ……好き……さくらも好き……倫太くん、好きぃ」

パーティーに戻った僕は、どんな顔をしてたのだろう?
幼なじみの中で、一番の優等生で美人の美玲さんが、顔を近づけて言った。

「彼は、人間じゃないから」

三原輪太――奴は、人間じゃない。
母の国籍より、それは、僕には、ずっと重要な情報となったのだった。

<了>

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