半端じゃない……
そして、尋常じゃない……
狛江さんの発したフレーズから、思い当たることがあった。
僕もまた、テレパシー的なアレで、狛江さんに訊いてみた。
(狛江さん。おばあちゃんと、どこで会ったの?)
(『ガラマサ』――親父に、予約した牛肉引き取って来てくれって頼まれたんだ)
(どうしてそんなところで!?)
『ガラマサ』は、二四時間営業の業務用スーパーで、我が家からは駅を越えて二〇分ほど歩いた場所にある。
電車で一時間もかかる町に住んでるおばあちゃんと狛江さんが、どうしてそんなところで出会うことになったのか、まったく経緯が分からなかった。
でもまあ、それは後で聞けばいいとして……
(まあいいや。狛江さん、おばあちゃんから、どんな話を聞いたの?)
(えーと、大学でガン◯ムの富◯監督と学生運動したりとか……)
(子供の頃サインを貰った川上◯治が、いかに嫌な人間だったかって話は?)
(あー、聞いた聞いた。でも知らなかったなー。東京ド◯ムが、ジャイア◯ツの攻撃の時だけ空調をイジってホームランが出やすくしてるって噂、本当だったんだな―)
その話が出たということは、おばあちゃんは、少なくとも、持ちネタの三分の一まで話したということになる。
そこからまた学生時代の話に戻って、ガン◯ムの原案を考えたのは自分だと主張しだしたら、三分の二。
僕はまだ聞いたことがないけど、父さんによると、そこから更に三分の一が残っているのだそうだ。
ちなみにその内容は、教えてもらえなかった。
もっと聞きたくて僕がぐずると、
『知らなくていいよ!』
と、横から母さんが吐き捨てるように言って、その時は、それでおしまい。
ちなみに母さんは、おばあちゃんと仲が悪い。
まあ、言うまでもないことなのかもしれないけど……
「それで美津子さんの教えた内容が元になって、ザンボッ◯3が作られたと。あ、ちょっと家に電話かけてきますね」
狛江さんが中座したタイミングで、おばあちゃんに訊いてみた。
ねえ、おばあちゃん……
「狛江さんのこと、結構、気に入った?」
「気に入ったよ? だって、いい子じゃない」
やっぱり、そうか。
おばあちゃんの『ガン◯ムの原案を考えたのは自分だ』という主張だけど、ごく稀に『ガン◯ム』が『ザンボッ◯3』に変わる――そしてそれは、おばあちゃんが相手を凄く気に入った場合に限られていた。
「あーあ。レイコも和也くんなんかじゃなくて、リョウタくんと一緒になれば良かったのに……」
出た。
(出ちゃった……おばあちゃんの、父さん下げ)
おばあちゃんは、父さんよりも、狛江さんのお父さんのリョウタくんを気に入っている。
それは母さんの学生時代からずっとだそうで、それが、母さんとおばあちゃんの不和の原因のひとつらしい。
父さんに野球を教えたのは、おばあちゃんだ。
おばあちゃんは、父さんの入ってる少年野球のチームの監督をしていた。
その頃から、おばあちゃんの父さんに対する評価は、かなり低かったんだそうだ。
技術とか才能とは別の――ぶっちゃけ、人間性の部分で。
母さんが、いつか言ってた。
『思うんだけどさ、あのババアがパパを鍛えまくったのは、アタシから引き離すためだったんじゃないかな……野球でスターになれば、アタシ以外の女とくっついて、離れていくんじゃないかって……』
おばあちゃんが、言った。
「でも、さくらちゃんが倫太くんと結婚すれば、同じだね」
と、にこり。
『同じじゃねえよ、ババア』――この場に母さんがいたら、きっとそう言ったに違いないと思うと、なんだか胃が痛くなってくる僕だった。