僕は人間でないらしく













ある日、メルティオーレと名乗る不審な美少女が現れ,倫太に告げる。 「あなたは、人間ではありません
同じクラスの、通称“バイオレンスJK”狛江さくらと共に倫太は謎の解明に乗り出す。 「人間じゃなければ何なんだ!?
そして明かされる出生の秘密と過去の誘拐事件の真相倫太とさくらの、熱く激しい戦いが、ここに始まる!

僕は人間でないらしく

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【改訂版】<21>噂の現場 ~実は、新しいジャージに慣れるために散歩していたらしい~

狛江さんには、こんながある。


『狛江さんって、入学式の帰りに、格闘技をやってる大学生五人と喧嘩して、ボコボコにしたらしいよ』

●●

概ね正しいけど、この噂には、ふたつ間違いがある
ひとつは、狛江さんは入学式の帰りじゃなかった。
それからもうひとつ、相手は五人じゃなくて十人

何故そんな指摘が出来るかといえば、その現場に僕もいたからだ


その喧嘩を、僕は歩道橋の上から目撃した。

入学式の日。
時刻はもう夕方に近くて、僕はいったん家に帰ってからの外出だったし、狛江さんも制服と学校指定のジャージを着ていたけど、おそらく僕と同じだったんじゃないかと思う。

僕は母さんの命令で、手癖の悪い従兄弟が盗んできた自転車を、元々あった場所に戻しに行くところだった。

そこで目撃した――彼女の喧嘩を。

オレンジ色のジャージを着た金髪の少女が、デカい男たちに囲まれていた。
一見しただけでは、何が起こってるのかわからない光景だった。

言葉も動きも、ちょうど途切れた瞬間だったらしい。
そこにいる誰もが――何もかもが静止していた。
もう少しそのままの状態が続いていたら、僕は、そこに幾何学的な美しささえ見出していたかもしれない。

それが、一瞬一変した。

とととと、と一歩、二歩、三歩……
少女の正面に立ってた男が、突然、後ろ歩きを始めていた。
四歩、五歩………そして九歩目で、仰向けに倒れた

「がはぁあっ!歯が!歯が!はがががっがががが……」

赤ちゃんの寝返りみたいに身を捩らせる男の、口元は真っ赤に汚れている。

だ……)

それでもまだ、僕は、自分が何を見ているのか理解出来ないでいた。
でもそれも、次の一瞬までだった。

「「………………っ!!!」」

少女の両側にいた二人が、その場に正座したかと思ったら、鼻を押さえて、そのまま動かなくなった。
彼らの指の間から垂れる――赤。
血の赤。
        
この時点で、ようやく僕も理解した。

男の一人は歯を折られ、二人は鼻を潰されたのだと。
それが、少女の攻撃によるものなのだと。
それからもう一つ。

自分が、何を見ているのか――喧嘩を、見ているのだと。
少女一人対男十人の喧嘩を、自分は見ているのだと。

理解した、次の瞬間、

「逃げろ!」

決心も、その前の葛藤も無く、僕は叫んでいた
叫びながら、同時に自転車から降り、そのまま自転車を、歩道橋の下に向かって放り投げていた

男たちの誰かに当たって、少女が逃げるきっかけが出来れば良かったし、運が良ければ、そのまま乗って逃げて貰っても良かった。

でも彼女は、
「サンキュー!!」
ジャンプして空中で自転車のフレームを掴むと、そのまま着地がてらに、地上に残された男たちに殴りかかっていった――自転車武器に。

「うらぁああああああっ!!はぁあぅあっはあああぁああああっ!!!!!!」

喧嘩は、五分もかからず終わった
男たちにしてみれば、喧嘩していた時間より、その後で泣き声をあげながら地面に蹲ってた時間の方が長かったかもしれない。

全てが終わった後で――
「助かったよ。ありがとうね」
――言いながら、握手を求めてくる女の子。

その手を握りながら、ようやく僕は気付いた。
彼女が、あの『狛江さくら』だということに。

ほんの数時間前――入学式でも、その後の教室でも、彼女は注目を集めまくっていた。
バイオレンスJC』なんて異名や噂の武勇伝が全く、何の手掛かりにもならないくらいの、単純に凄い美少女がそこにいた。

学校で見たあの美少女と、いま握手している目の前の彼女――よく見れば美しさは変わらないのに、まるで別人みたいだった。

あの時、狛江さんは、僕が同じクラスの男子だって気付いていたんだろうか?
「じゃあね」とか「またね」とかいった言葉は無しに、僕らは別れた。

彼女の手は冷たくて、張りがあって、滑らかで、まるでアイスクリームの詰まった水風船みたいで――まあ、そんなよくわからない喩えは、どうでもいい

自転車でその場を離れて、一〇分位経ってまた戻ったら、当然だけど、彼女はもういなかった。
(当然か……)
まだ呻き声をあげてる男たちを避けて、僕は、歩道橋の下に自転車を停めた。
従兄弟が自転車を盗んだのは、この場所からだった。

そして僕は、元々、この場所に自転車を置いて帰るためやってに来たのだ。

(何やってんだ、僕……)

帰り道、僕は思っていた。

(入学式の彼女と、さっき喧嘩してた彼女――明日学校に来るのは、どっちの彼女なんだろう?)

【改訂版】<20>街を見下ろす場所で ~想うということ。その2~

目が覚めた。携帯の時計を見た。
時刻は午後八時二十分

下の階に降りると、キッチンで母さんがテレビを見てた。
コトリとヒカリの姿はない。
夕食を終えて、自分の部屋に帰ったんだろう。

父さんは?」
「まだ仕事。ごはん食べる?」
「ちょっと、散歩に行ってから食べる」
「ああ、そう」お茶を啜って「行ってらっしゃい」

そっけない態度に、僕は、ちょっと、ほっとする。


とりあえず、通学路にあるコンビニに向かった。

バカみたいな顔の(しかも悪目立ちする)店員がいるせいで、近隣の中高生から『バカの店』とストレートな呼び名を付けられている店だ。

その『バカの店』を、いま出る人がいた。

右を見て、左を見て、ポケットに手を突っ込んで歩き出すオレンジのジャージ。
狛江さんだ。

ちょっと迷って僕は……
すぐに声をかけるのは止めて、狛江さんの後をつけることにした

●●

家に電話をかけた。

「母さん?僕だけど、少し帰りが遅くなりそう……うん。夕飯は、帰ってから食べる……僕の居場所は、スマホのGPSで分かるはずだから……え?『なんだそりゃ?』って、母さんにも使い方説明……そうだね。使い方は父さんに聞いて。じゃあね。心配かけてごめ……あ、切れた」

●●●

通りかかったコンビニの時計――歩き出してから、もう一時間近くが経っていた。

●●●●

狛江さんは、まだ歩くのをやめない。

●●●●●

「ちょ、ちょっと狛江さん!」
「あ、あれ!?自分、どうしたのよ?」
「どうしたもこうしたも……狛江さんの後を追ってきたんだよ」
「え?どこから?」
「国道のコンビニ――『バカの店』を出たとこから」
「『バカの店』から!?って、すげえっていうか……マジで尾行じゃん。相手が自分だったからいいけど、それ、人によってはキモいと思われるよ。気をつけた方がいいよ。絶対!」
「だって狛江さん、全然、止まらないんだもん!狛江さんが立ち止まったら声をかけようと思ったら……何キロ歩くんだよ。ここってもう、隣の県だよ」
「ええ!?まだ県は越えてないよ!」
「い~え、越えてます!ほら、あそこの自販機が県境

と、僕は見下ろす景色の一点を指さす。
ここは、隣の県との間にある山の、頂上近くの展望台だ。

「へへぇ……」
「な、何?なんだよ狛江さん」
「自分、ちょっとテンション高くない?
「狛江さんこそ……」
「うん。自分、確かにね。ちょっと興奮してるかも」

景色を切り取るように、指で四角を作って、狛江さんは見るからに上機嫌だ。
僕も、狛江さんの隣にいるだけで鼓動が早くなる。

「自分たち、あそこで戦ったんだよな~」
「うん……狛江さん、がんばったよね」
「へへへ……三上くんも、お疲れ様」

僕も、狛江さんを真似して指で四角を作ってみた。
メルが言ってたことを、思い出す。

『壊れた何かについて誰かが想えば――想う人が多ければ多いほど早く『観念』は修復されるものなんです』

昼間、僕らが戦ってから、まだ十時間ちょっとしか経っていない。
もし『妖精眼』を着けてたら、この景色は、どんな風に見えるだろう?
メルの言う通りなら、僕たちの戦いで焼かれたり、潰されたりした木々や家々の『観念』は、既に修復され始めているはずだ。

指で作った四角を、動かしてみる。
指で切り取られた景色が、流れていく。
ふと、思った。

想うって、どういうことなんだろう?)

(一体どんな行為が、この景色の『観念』を修復させるんだろう?)

(わからない)

って。

気づくと、狛江さんが、ニヤニヤ笑いで見てた。

「へへへ~。三上くん、すげえマジな顔してんね」
「まあね」どや顔で僕が応えると、
「くひひひひひひ。なんだよ、その顔~」狛江さんが、顔をくしゃっとさせて笑った。

それは、初めて見る感じの笑顔と笑い声で、僕は、なんだか得したような気持ちになりながらも、ちょっと戸惑う。

「狛江さんは、よくここに来るの?」
「いや、全然。今日はさ、ほら、なんか興奮してるから、歩いて落ち着こうと思って!またがんばろうな!三上くん」
「うんっ」

そして――

あの時は、ありがとう
唐突に言って、真面目な顔になった。

あの時というのは、きっと『あの時』のことなんだろう。

【改訂版】<19>僕は聞く。そして忘れる ~まだ知るべきことでない真実を、人間の脳は自ら忘れて記憶するのを拒むとか~

母さんの特技のひとつに、車の調達がある。

どんな時間でも、どんな場所にいても、電話ひとつで車を貸してくれる仲間が、母さんにはいる。
そうやって調達した車で、まずは狛江さんを家まで送って、それから家に帰った。

その間、後部座席の僕が目を覚ましたのは、狛江さんを降ろして、再び出発したときくらいだった。『狛江亮太』『さくら』。表札には、その二つの名前しかなかった。

夢の中で、誰かが喋っていた。


僕は聞く。


お父様とは、初対面のはずでしたよね?
お父様がロボットになったとき、わたくしみたいなモノは、訪ねて来ませんでしたよね?

当然です。ロボットとはいっても、それでも人間の範疇をはみ出すわけではありません。

倫太さんは、違います。
ロボットだから、ではありません。
ロボットどころではないから、わたくしが遣わされたのです。

本来のハングレールに、男性はいなかったはずです。
行く先々の星で男性を調達し、子を増やす。
それが、ハングレールの繁殖方法――違いますか?お母さん。
二億年の歴史で、ハングレールの男性は、わずか三人しか生まれていない。

だからなのでしょう?

三人のハングレール男性が操縦を任せたのは、ハングレール以外の女性に対してのみ。
ハングレールの女性には、決して操縦を許していません。

だからあなたでもあなたの妹さん方にでもなく、地球人の女性に、倫太さんの操縦を任せたのでしょう?

注視すべきと考えているのですよ。

観念獣から進化した、いわばイレギュラーな存在であるあなたがたハングレールの中でも、さらにイレギュラーな存在である、倫太さんをね。

わたくし?

わたくしは、附帯世界執行官七号メルティオーレ
ちなみに七号というのは、設定された態度の種類を表すコードであり、決して、わたくしの個体番号を示すものではありません。個体としての区別を適用するなら、いまのわたくしと、いまのわたくしと、いまのわたくしは、すでに別人といえるでしょう……喩えではありません。実際に、まったく別のわたくしと入れ替わっているのです。

ためしに、個体ごとに顔色を変えてみましょうか?
ほら……ああ、すみません。酔いましたか?
どこかに車を停めて、吐いちゃいますか?
ああ、そうですか。我慢できますか。

ちなみにわたくし、倫太さんに会いに行ったとき、不注意でふたつの個体を同時に向かわせてしまいまして、それで多少の混乱を招いてしまったようです。

まあ、小芝居でごまかしましたけど。

わたくしたちのバックグラウンドについて語ることは、現時点では、お互いに不利益となりかねません。よって、今後もその件につきまして倫太さんからの突っ込みが入った場合には、すっとぼける方向で行く所存でございますので、どうかご協力をお願いいたします」


●●

僕は忘れる。

【改訂版】<18>想うということ ~メルちゃんが、ちょっといいことを言いますヨの巻~

B回線では狛江さんが、励ます僕の言葉に、めいっぱいの笑顔で応えてくれている。

「うん、ありがとう!自分、がんばるから!」
「狛江さん。もう少しだからね!僕もがんばるから!」
「うん。うん………うん!お兄ちゃん溶解液!!

がんばるとは言ったけど、実際には、僕にはがんばりようがない。
身体は狛江さんの操作のまま動いてるだけで、僕ががんばってるわけじゃない。

「ごめん!三上くん。避けられなかった!」

攻撃を受ければ痛みも感じるけど、それはただの情報で、ダメージに合わせてパラメータを再設定すれば、身体は、ちゃんと動いてくれる。

「僕は大丈夫。それより狛江さん、操縦桿に衝撃来なかった?」
「全然平気っ!」

僕は、何も、苦しくなんてない。

ステータスを見れば、狛江さんの左の人差し指が、亜脱臼で使い物にならなくなってるのが分かる。

息を切らすのも、コクピットを揺らす衝撃に歯を食いしばるのも、狛江さんだけだ。

僕は、医療用ナノマシンを狛江さんのスーツで合成。彼女の体内に注入する。

「ちょっと、チクッとするよ」
「ん、ああ……おう!チクっとした」

僕は、まったく、がんばってなんていない。

「すげー楽になった。ありがとうね!」

ただ、狛江さんにがんばってほしいって思ってる……それだけだ。

「それで充分なんじゃないですかねえ……ところで、さっきから足下を気にされてるようですけど、大丈夫ですよ――『観念』は、壊れてもすぐ直ります。観念獣に喰らわれない限り

ロボットである僕は、観念獣と同じ、観念の世界の存在になって戦っている。
だから、足下の家を踏んだりしても『モノ』である家は、壊れない。

だけど『観念』は別だ。

僕に踏みつけられた家の『観念』は破壊される
そのたび、僕の足にも痛みが走る。

僕と父さんが、観念獣を攻撃する。
光や金属や粘液の銃弾を発射。

観念獣の体表に、小さな光が瞬く。
着弾の証だ。

瞬きに一瞬遅れて、僕らの攻撃が通った後の空間に、滲んだような軌跡が現れる。
そこから、さらに一瞬遅れて、音がする。

発射音。
着弾音。
爆発音。

観念獣の体表から剥がれ落ちる、瓦礫みたいな体組織
汚泥めいた体液

跳んだり、降りかかってきたりしたそれらに、潰され、溶かされる家々
地表を沸きたせる化学反応
燃え上がる木々。

「ねえ、メル。本当に、大丈夫なのかな?」
「大丈夫ですよ。言ったでしょう?これは『観念』なんです。壊れたって、いずれは元通りになるものなんですよ」
「だから……本当に、元通りになるの?」
「なりますとも――壊れた何かについて誰かが想えば――想う人が多ければ多いほど早く『観念』は修復されるものなんです」
「本当に?」
「本当ですよ――いいですか?この世界にあるどんな存在も、この世界にある限り、案外、誰かに想われているものなんですよ。どんなに詰まらないと思われてるような、人やモノだとしてもね」
「そういうものなの?」
「そういうものなんですよ」

計算が正しいなら、戦闘は、次の攻撃で終わるはずだった。

「お兄ちゃんブーメラン!」
「スペース竹槍!」

観念獣が爆発四散する――計算した数値に、観測した数値が次々一致していく。
それを見ながら、しゃがみこみそうになるのを堪える狛江さん――力の入らない体幹を、下腿部の緊張でなんとか支えている。

「った……やった。は、はは、は……はぁ…はぁ……」

僕は、母さんと父さんからの通信を、しばらくは繋がないでおくことにした。
父さんも母さんも、まったく息を切らしていなかった。

狛江さんが息を整えるのを待ちながら、
お疲れ様。
がんばったね。
僕は、そう、彼女に伝えたはずだった。

僕の言葉に応えて、サムアップする狛江さんの笑顔を覚えている。

でも、そこまでだ。

そこで僕の記憶の連続性は、いったん途切れる。

簡単にいうと、寝落ちしてしまった。

案外、僕も疲れていたのかもしれない。

【改訂版】<17>戦う理由 ~今回と次回と次々回は、メルちゃんが語りまくっちゃいますよ!の巻~

「文字通り、観念の獣ですよ」
「それじゃ、そのまんますぎるよ」
「じゃあ倫太さん。観念って、なんだと思います?」
「イデア……何かについての…『考え』?」

「そうです。『考え』のまとまり。それが、観念獣の喰らう『観念』です。星から星へと渡り『観念』を食らいつくして巡る、『モノ』としての身体を持たない観念階層の怪物――それが、観念獣です」

「『考え』を……『観念』を、喰らう?」

「例えば、ビルを建てようとする。こんなビルを建てようと考える。設計図を描く。工事を計画する――そんな『考え』がまとまって『観念』になります。その後、実際に工事をして、ビルを完成させる。そうしたら『観念』は、消え去ってしまうでしょうか?」

消え去らないんだろうな……この話の流れだと。

「『観念』は、実際の『モノ』と共にあり続けます。『観念』は『モノ』の変化により書き換えられ、『モノ』は『観念』に従って、姿を維持し続けます。文明の進んだ星では、『観念』を書き換えることによって『モノ』を変化させるなんて技術が普通にあるんですよ?」

「うん…それで?」
N回線で、父さんからパイロットのバイタル管理のレクチャーを受けながら、話の続きを促す。

「では仮に『観念』が消え去り『モノ』だけが残ったとしたら、どうなると思いますか?」

僕の答えを、メルは待たなかった。

『魔』が生まれます――『魔』は善悪の判断の対象ではありません。問題は『観念』による支配が不可能な『モノ』が、そこにあるということです。地球レベルの文明ではまだ問題にならないでしょうけど……」

「じゃあ、別に放っておいても……観念獣と戦ったりしなくても、いいんじゃない?」

「そうはいきません。『観念』で『モノ』を操作するレベルの文明にとって『魔』の存在は、致命的な瑕疵となりかねないんですから……

昔、妖精眼が広まっていなかったころ、文明が進んで、いざ『観念』で『モノ』を操作する段階になったら、すでに星中の『観念』が観念獣に食い荒らされていて、それ以上の発展が出来なくなってしまったなんて悲劇が、結構あったんです。

さっき、お母様が言ってらしたでしょう?
『妖精眼は、どこの星にもある』って。

あれはですね、そういう悲劇を避けるために、妖精眼を配った人がいたってことなんですよ」

「じゃあ観念獣を放っておいたら……いまの時点では、どんな問題があるの?」

「みんなが、少しづつ不幸になります。少しづつ、少しづつ……ただあるだけの『モノ』が増えていき、少しづつ、少しづつ……誰の上にも不幸が降りかかっていく」

まるで、いま見たままを語ってるような声だった。
(メルって、何者なんだろう?)
疑問を、口にしたわけでもないんだけど――

「わたくしは、附帯世界執行官7号(サブセツトドミネーターナンバー7)メルティオーレ。ちなみに7号というのは、設定された態度の種類を表すコードであり、決して、私の個体番号を示すものではありません」

――『附帯世界執行官7号』というのが何なのかはわからないのは変わらずだけど、とにかくまあ、そういう答えが返ってきた。

【改訂版】<16>戦闘開始 ~『お兄ちゃん』って聞く度に、何か嫌なモノを背負わされちゃったのかなーって思って気分が重くなるんだけど、それって僕の気のせいでしょうか?~

父さんから送られてきたデータだと、観念獣との戦いでは、接近戦は少ないみたいだ。
ほとんどの戦闘は、500メートル以上離れての攻防だけで決着がついている。

ちなみに僕が変身したこのロボットだけど、マニュアルによると、こんな名前らしい。

『お兄ちゃんロボ』

さっきのコトリの独白を、思い出さざるを得ない名前だった。
しかし、憂鬱になってる暇はない。

既に、観念獣の攻撃が始まっていた。
観念獣の弾丸とも光線ともつかない攻撃は、それを放つ本体と同じく、形容しがたい外見をしていた。

色も、形も不定形。

あえて喩えるなら、パレットで暗いというか汚い色の絵の具を何色も混ぜあわせているところへ更に新しい絵の具を足し続け&混ぜ続けているような、終わらない色と形の変化――物とも現象ともつかない何か。

そんな何かが、超スピードでこちらに向かってくる。
しかし一体、あれを何と呼べばいいのか……

A回線で、母さんが叫んだ。

「来たよ!ウンコ爆弾!パパは平気だけど倫太は出来るだけ避けて!」

そうか。
そういうセンスでいいんだ……

「お兄ちゃんミサイル!お兄ちゃん破壊銃――当たった!お兄ちゃんビーム!お兄ちゃんフラッシュ!」

観念獣の攻撃を避けながら、狛江さんと僕は矢継ぎ早に攻撃を繰り出す。

一方、母さんたちはというと……

「デッパカッター!」

ぶ厚い装甲で敵の攻撃を跳ね返しつつ、威力の大きな、でも発射まで時間のかかる兵器で攻撃、というパターンだった。

僕たちの
「お兄ちゃんフィンガーミサイル――親指!人差し指!中指!薬指!小指!」
と、父さんたちの
「ギャラクシー・トルエン!」
で比べてみると、敵に与えるダメージは、見た目的にもデータ的にも父さんたちの方が大きいし、効率の面ではまったく比較にならなかった。

まあ、いいか。
こっちは初心者だ。

FE回線というのを見つけて、僕は話しかける。


「ねえ、聞こえる?そこにいるんだろ……メル


「はいはい、聞こえてますよ。それにしてもここって、何のための場所なんですかねえ?」
「怪我人を見つけて、保護したりするために使うみたい」
「ふうん。確かに、全然ゆれたりしませんもんねえ」

メルが寝ころがっているのは、コクピットから10メートルほど下にある、四畳半くらいの広さのスペースだ。

僕がロボットへの変身を終えたときには、メルは既にそこにいた。

ロボットにメルが忍び込んでるのを、知ってるのは僕だけだ。
狛江さんは知らないし、この会話も、僕とメルにしか聞こえていない

気になってたことを、訊ねてみた。

いまここで、彼女から聞かなければいけない気がする問いだった。
いまここで、彼女からしか聞けない気がする問いだった。

僕は訊いた。

「メル。観念獣って、なんなの?」

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