僕は人間でないらしく













ある日、メルティオーレと名乗る不審な美少女が現れ,倫太に告げる。 「あなたは、人間ではありません
同じクラスの、通称“バイオレンスJK”狛江さくらと共に倫太は謎の解明に乗り出す。 「人間じゃなければ何なんだ!?
そして明かされる出生の秘密と過去の誘拐事件の真相倫太とさくらの、熱く激しい戦いが、ここに始まる!

ライトなラノベコンテスト

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【改訂版】<17>戦う理由 ~今回と次回と次々回は、メルちゃんが語りまくっちゃいますよ!の巻~

「文字通り、観念の獣ですよ」
「それじゃ、そのまんますぎるよ」
「じゃあ倫太さん。観念って、なんだと思います?」
「イデア……何かについての…『考え』?」

「そうです。『考え』のまとまり。それが、観念獣の喰らう『観念』です。星から星へと渡り『観念』を食らいつくして巡る、『モノ』としての身体を持たない観念階層の怪物――それが、観念獣です」

「『考え』を……『観念』を、喰らう?」

「例えば、ビルを建てようとする。こんなビルを建てようと考える。設計図を描く。工事を計画する――そんな『考え』がまとまって『観念』になります。その後、実際に工事をして、ビルを完成させる。そうしたら『観念』は、消え去ってしまうでしょうか?」

消え去らないんだろうな……この話の流れだと。

「『観念』は、実際の『モノ』と共にあり続けます。『観念』は『モノ』の変化により書き換えられ、『モノ』は『観念』に従って、姿を維持し続けます。文明の進んだ星では、『観念』を書き換えることによって『モノ』を変化させるなんて技術が普通にあるんですよ?」

「うん…それで?」
N回線で、父さんからパイロットのバイタル管理のレクチャーを受けながら、話の続きを促す。

「では仮に『観念』が消え去り『モノ』だけが残ったとしたら、どうなると思いますか?」

僕の答えを、メルは待たなかった。

『魔』が生まれます――『魔』は善悪の判断の対象ではありません。問題は『観念』による支配が不可能な『モノ』が、そこにあるということです。地球レベルの文明ではまだ問題にならないでしょうけど……」

「じゃあ、別に放っておいても……観念獣と戦ったりしなくても、いいんじゃない?」

「そうはいきません。『観念』で『モノ』を操作するレベルの文明にとって『魔』の存在は、致命的な瑕疵となりかねないんですから……

昔、妖精眼が広まっていなかったころ、文明が進んで、いざ『観念』で『モノ』を操作する段階になったら、すでに星中の『観念』が観念獣に食い荒らされていて、それ以上の発展が出来なくなってしまったなんて悲劇が、結構あったんです。

さっき、お母様が言ってらしたでしょう?
『妖精眼は、どこの星にもある』って。

あれはですね、そういう悲劇を避けるために、妖精眼を配った人がいたってことなんですよ」

「じゃあ観念獣を放っておいたら……いまの時点では、どんな問題があるの?」

「みんなが、少しづつ不幸になります。少しづつ、少しづつ……ただあるだけの『モノ』が増えていき、少しづつ、少しづつ……誰の上にも不幸が降りかかっていく」

まるで、いま見たままを語ってるような声だった。
(メルって、何者なんだろう?)
疑問を、口にしたわけでもないんだけど――

「わたくしは、附帯世界執行官7号(サブセツトドミネーターナンバー7)メルティオーレ。ちなみに7号というのは、設定された態度の種類を表すコードであり、決して、私の個体番号を示すものではありません」

――『附帯世界執行官7号』というのが何なのかはわからないのは変わらずだけど、とにかくまあ、そういう答えが返ってきた。

【改訂版】<16>戦闘開始 ~『お兄ちゃん』って聞く度に、何か嫌なモノを背負わされちゃったのかなーって思って気分が重くなるんだけど、それって僕の気のせいでしょうか?~

父さんから送られてきたデータだと、観念獣との戦いでは、接近戦は少ないみたいだ。
ほとんどの戦闘は、500メートル以上離れての攻防だけで決着がついている。

ちなみに僕が変身したこのロボットだけど、マニュアルによると、こんな名前らしい。

『お兄ちゃんロボ』

さっきのコトリの独白を、思い出さざるを得ない名前だった。
しかし、憂鬱になってる暇はない。

既に、観念獣の攻撃が始まっていた。
観念獣の弾丸とも光線ともつかない攻撃は、それを放つ本体と同じく、形容しがたい外見をしていた。

色も、形も不定形。

あえて喩えるなら、パレットで暗いというか汚い色の絵の具を何色も混ぜあわせているところへ更に新しい絵の具を足し続け&混ぜ続けているような、終わらない色と形の変化――物とも現象ともつかない何か。

そんな何かが、超スピードでこちらに向かってくる。
しかし一体、あれを何と呼べばいいのか……

A回線で、母さんが叫んだ。

「来たよ!ウンコ爆弾!パパは平気だけど倫太は出来るだけ避けて!」

そうか。
そういうセンスでいいんだ……

「お兄ちゃんミサイル!お兄ちゃん破壊銃――当たった!お兄ちゃんビーム!お兄ちゃんフラッシュ!」

観念獣の攻撃を避けながら、狛江さんと僕は矢継ぎ早に攻撃を繰り出す。

一方、母さんたちはというと……

「デッパカッター!」

ぶ厚い装甲で敵の攻撃を跳ね返しつつ、威力の大きな、でも発射まで時間のかかる兵器で攻撃、というパターンだった。

僕たちの
「お兄ちゃんフィンガーミサイル――親指!人差し指!中指!薬指!小指!」
と、父さんたちの
「ギャラクシー・トルエン!」
で比べてみると、敵に与えるダメージは、見た目的にもデータ的にも父さんたちの方が大きいし、効率の面ではまったく比較にならなかった。

まあ、いいか。
こっちは初心者だ。

FE回線というのを見つけて、僕は話しかける。


「ねえ、聞こえる?そこにいるんだろ……メル


「はいはい、聞こえてますよ。それにしてもここって、何のための場所なんですかねえ?」
「怪我人を見つけて、保護したりするために使うみたい」
「ふうん。確かに、全然ゆれたりしませんもんねえ」

メルが寝ころがっているのは、コクピットから10メートルほど下にある、四畳半くらいの広さのスペースだ。

僕がロボットへの変身を終えたときには、メルは既にそこにいた。

ロボットにメルが忍び込んでるのを、知ってるのは僕だけだ。
狛江さんは知らないし、この会話も、僕とメルにしか聞こえていない

気になってたことを、訊ねてみた。

いまここで、彼女から聞かなければいけない気がする問いだった。
いまここで、彼女からしか聞けない気がする問いだった。

僕は訊いた。

「メル。観念獣って、なんなの?」

【改訂版】<15>僕がロボットになりまして ~よーし。じゃあ父さんは、変形しちゃうぞお~

部屋の反対側を見ると、狛江さんは、たいそうスラスラと原稿用紙の升目を埋めてるみたいだった。きっと狛江さんは、頭のなかにあるものを、そのまま文章にできるタイプの人なんだろう。

僕が同じことをしたら、無駄に凝ったレトリックが頻発する、結局、読み終えても何が言いたいのか分らない文章になってしまうに違いなかった。

最終的に、僕が三分かけて書き上げたのは、三行の箇条書きだった。
僕も狛江さんも、原稿用紙をお守り袋に入れて、首から下げた。

「じゃ、いいかな?」

母さんが、窓の外を指さした。
気づくと、僕の両腕が、消えていた。

「倫太は、もうロボットに変身はじまってるみたいね。
ほら、さくらちゃん。あっちあっち。あっち指さして……」
「えっ、こう…ですか?」

母さんに指示されるまま、狛江さんも窓の外を指さす。
その先にあるのは、県境の山だ。

観念獣が立っている場所とは、住宅街を挟んで、二、三キロ離れている。
目を懲らすとそこに、どう見てもロボット、としか形容しようのないが浮かんでいた。

続いて同じ場所に、が出現する。

(ってことは?)

視線を自分の身体に戻すと、だけでなくもなくなっていた。
胴体も、おへそのあたりまで、もう消えていた。
僕の身体がぜんぶ消えさるまで、三十秒もかからなかった。

部屋から最後に見たのは、住宅街を見下ろして立つ、巨大なロボットだった。
悪くはないデザインだ。
もしもプラモデルが売ってて、値段が二千円以内だったら買ってもいいかな、と思うくらいには。

そこから先は、街を見下ろしていた。

僕は、ロボットになっていた。


戦いは、すぐに始まった……わけではない。
父さん――母さんの乗るロボットの出現を、待ってからだった。
父さんは、雲をかき分けながら現れた。

♪ぱぱら、ぱらぱぱ、ぱぱらぱぱー

青空を震わすミュージックホーン
自動車――父さんは、ひと言でいえば、超巨大なヤンキー仕様のセダン車の姿をしていた。
僕の胸にあるコクピットで、狛江さんが呟く。

「デッパ竹槍……」

ラメ入りのボンネットには、腕組みした母さん。
ぱちん。
母さんが指を鳴らした。
ビカッと稲光。
すると次の瞬間、
どどん
と音が鳴って、自動車はロボットに変形していた。

同時に、通信が来た。

「操縦の仕方はわかるよね!さくらちゃん」
「はいっ!変身したら、わかりました」

そういうものらしい。

いま僕がどんな状態になっているかといえば、ロボットの外の景色と、コクピットの様子と、ロボットの内部の機械とか、稼働状況を示すメーターなんかを、ぜんぶ同時に見てる。

いまの母さんと狛江さんの通信は、A回線という、みんなに聞こえる回線で行われていた。
僕と狛江さんにだけ聞こえるB回線で、僕は話しかける。

「狛江さん、僕、がんばるから。遠慮しないで」
「うん、ありがとう。自分、がんばるからね!」

メーターの数値は、軽い興奮状態を示している。

「あのさ…嬉しかったんだ――レイコさんに会えて。
自分の親父が、レイコさんに憧れてたんだ。
それで、『女はレイコさんみたいに金髪じゃなきゃだめだ』って言って……金髪の女とばかり付き合って……最終的に結婚したのがフィンランド人のお袋で。
だから自分、ハーフなんだ。
自分、レイコさんみたいになれって親父に言われて育って……
だから今日、レイコさんに会って嬉しかった。
自分が目ざせっていわれたレイコさんが、かっこいい人で、良かった。
最高にかっこいい人で、良かった。
それに……レイコさんが、親父のことを覚えてくれてた。
自分のことを知っててくれてた。
ビッとしてるって、褒めてくれた。
嬉しかった……本当に、嬉しかったんだ」


戦闘が始まった。

【改訂版】<14>コトリの独白 ~第三者としてみると引くよね、それ。僕は当事者だから、逆になんとも思ってないけど~

誰もが嫌な予感を感じる中で始まったのは、それに相応しい、コトリの独白だった。

「女の子は、男の子を実の兄のように慕い『おにいちゃん』と呼び、その想いはやがて恋心へと変わっていきました。しかし少年が選んだのは、愛らしくも聡明な少女でなく、あろうことか派手な顔立ちと大きな胸を下品に見せびらかす、少女の姉だったのです」

この話に出てくる『少女』というのがコトリで、『姉』というのが母さんで、『少年』が父さんなのは、まず間違いないだろう。

父さんに対するコトリの横恋慕は、決して過去の問題ではなく、半ば現在進行形で、親戚一同周知にして禁断の話題だ。

「少年と恋人同士になった少女の姉が、少女の部屋と薄い壁一枚隔てただけの部屋に少年を連れ込み破廉恥な行いに耽るようになるまでに、時間はかかりませんでした。かつて…いや、いまでも恋している少年の『ううっ、レイコ!僕、僕、もう……お、お、おおおっ!』などとといった獣じみた声を、きっちり週五回聞かされる少女の胸の内は、いかなるものだったでしょうか?」

すでにコトリ以外の、誰もが俯いていた。
あまりにいたたまれなさすぎた

「この責め苦も、姉が妊娠し少年と結婚したのを機に、二人が少年の実家で暮らすか、新しく部屋を借りて住めば終わったことでしょう。
しかし、結婚した二人は、姉の実家、つまり少女と同じ家の姉の部屋、つまり少女の隣のあの部屋で、新婚生活を始めたのです」

横目で見れば、窓の外の景色で立ってる、観念獣。
(僕、なにやってるんだろう……)
そんな気持ちになってくる、僕だった。

「毎夜隣の部屋で繰り広げられる、新婚夫婦の営み。少女に出来ることといえば、子守りを任された際『ふくらんだのぉ。いま!びくってナカでふくらんだのぉ』『イタイの好きぃ!イタイの気持ちいいのぉ』などといった姉の嬌声を、赤ん坊の耳元で再現してやることくらいでした」

母さんの顎が、愕然とガクンと落ちた。
「はぁあ……?」
どうやら、これだけは初耳のエピソードだったらしい。

フォローしなければ。

「大丈夫!母さん!僕、覚えてないから!悪い影響とか受けてないから!その影響で性的な話題に病的な嫌悪感を示したりしてないから!」
「ほ、本当に?」
「うん!だってボク、おっぱい、だーいすき!

精神の平衡を取り戻すのに必死な僕たち母子。
と、その間――それをよそに、コトリは、狛江さんへとにじり寄っていた。

「……受け取って。私の二十四年間の恋心……その結晶を」

コトリの胸から、輝きの塊が取り出される。
あれが、コトリのハングレ・ハートか。

ドクロに山羊の頭に動物の内臓に、鉄の質感を持つ握り拳……
それらのモチーフのどれが恋心を象徴しているのかは、非常に疑問だった。

「そ、それは恋心っていうより、恨みの結晶って言った方が近いんじゃないかな……」
さすがの狛江さんも、後ずさっていた。
「ぜひ!」
しかし、コトリは逃さない。
「ぜひ!」
「ふぁっ!」

ハングレ・ハートを乗せたコトリの手のひらが、狛江さんの胸に押しつけられる。
押しのけられた膨らみが、持ち上がって、ぽわんと揺れた。
その谷間に、一気にコトリの手首までが沈んで見えたのは、目の錯覚じゃない。

いま輝きが発せられているのは、身体の表面じゃなく、身体のもっと奥。
狛江さんの、胸の中心からだった。

「きれい……」
呟いたのは、ヒカリだ。

光が消えた。
変身も終わっていた。

「照れちゃってんですか?照れちゃってんですか?」
メルが、狛江さんをつつく。
「うるせぇ……」
反論は、力なかった。

僕はといえば、言葉を失っていた。
「…………」
コトリが、子供の頃からずっと胸の奥のハングレ・ハートに溜め続けた、想い。
狛江さんが変身した、コトリのスーツは、いうならば白いゴスロリで、普通に可愛かった。

「こんなの、自分、着たことないしぃ……」
でも狛江さんにとっては、ぜんぜん普通じゃなかったみたいだ。
「あぁ、もぉ、恥ずかしいぃ…」
普通に可愛い格好の狛江さんは、異常に可愛くて、そして本人が照れれば照れるほど、その可愛さはいや増しになるばかりなのだった。

「はいはい!照れるのはそこまで!」
母さんが手を叩いて、
「はい!これ書いて!」
僕と狛江さんに渡したのは――

鉛筆と四〇〇字詰め原稿用紙。



「何を書くかって?
あんたたちが、お互いを――
倫太なら、さくらちゃんのことを。
さくらちゃんなら倫太のことを、どう思ってるかだよ。

ロボットと操縦者の関係になる。
そうなったら、気持ちも、変わる。
相手がどんなにイヤなやつだったとしても、
イヤでも、特別な感情を抱くようになってしまう。

最初は、それでもいい。
でも、時間が経つとわからなくなっちゃうんだ。

もしロボットと操縦者って関係じゃなかったら、
自分は、そいつのことをどう思ってただろうってことが、
考えても考えてもわからなくなる。

ハングレールの女も、ロボットになった男も、
心を病んだ奴らは、大体、そこら辺でひっかかっている。

だから、最初にロボットで発信する前に、残しておくんだ。
元々、相手をどう思っていたのかを。
後々、引っかからないように、考えるための手掛かりをね。

あー、ちなみに書き終わったら、誰にも見せなくていいから。
このお守り袋に入れて、肌身離さず持ってて」


(狛江さんを……どう思っているか、だって?)
そんなの、決まりきってた。

【改訂版】<13>ハングレ・ハート ~僕、操縦されちゃうの!? なんかエッチな感じでスゲエ嬉しいんですけど~

怪獣――大きさは、街で一番高いビルでも、ようやく膝に届くかってくらい。
どんな生物にも、どんな乗り物にも、どんな建物にも似ていなくて、要するにそいつは『××を大きくしたような』って表現が、まったく適用できない姿をしていた。

横を――僕は、狛江さんを見た。
狛江さんも、僕を見てた。

「あいつらは、あんたらがいまかけてる『妖精眼』ってメガネじゃなきゃ見えない」

再びメガネのフレームに現れた母さんは、いつものトレーナーにジーンズじゃなかった。
プラスチックで出来た特攻服、とでもいったら良いだろうか?

「裸眼でやつらを見れるのは、ハングレールの女だけなんだ。
『妖精眼』は宇宙のどこの星にもある――地球にも、元々あったっていう。
でも、奴らと戦う力を持ってるのは、ハングレールのロボットだけだ
だから、ハングレールの女は、宇宙のどこに行っても大事にされる――モテモテだ」

母さんが、狛江さんの顔をのぞき込むように見た。
そうしながら話を再開した――理由が、僕にはわかっていた。
ほとんど確信に近い、予感だった。

「あのさ、頼みがあるんだけど」

「はい」

応える、表情を見てわかった。
狛江さんもまた、僕と同じ予感を抱いているに違いなかった。

「さっきから言ってる通り、倫太はロボットなんだ。
ロボットっていうのは、操縦するもんだ。
漫画だと、自分で勝手に動くロボットもあるけど、でもハングレールは、そういうのはロボットって呼ばない――自分で動くのは生き物だ。
ロボットは、誰かに操縦されなきゃ動けない。
だから……ロボットの倫太にも、操縦してくれる誰かが要る

「はい」

「倫太を操縦してやってくれないかな……悪いんだけど、理由はいえないんだけどさ。
アタシでなく、コトリでもなく、ヒカリでもなく……これは、狛江さんにしか頼めないんだ」

予感はあたっていた。
もし僕が、同じ状況で、同じ頼みをされたら、どうするだろう?
やっぱり、不安になるだろう。
『自分で、大丈夫なんですか?』なんて訊いてしまうだろう。

でも狛江さんは、
「はい。自分、やらせてもらいます」
即答だった。

母さんが、目を線にして笑った。
「ありがとう。狛江さんってさ、下の名前『さくら』だよね――リョウタ君の子だろ?知ってるよ」
「親父を、知ってるんですか!?」
「あったりまえじゃん。かっこいい先輩だったもん。覚えてるよ」
「……ウス」
「さくらちゃんの噂、聞いてるよ。『リョウタ君の娘が、すげぇビッとしてる』って」
「………ウス」
「噂通りだよねー」
「………………ウス」

「コトリ!」
「……はい」
呼ばれてコトリが、前に出る。
コトリと母さんと狛江さんとで、三角を描くように立った。
母さんが、スーツの胸の切り込みに手を置いて言った。

「ハングレールの女は、ここに宝石を持っている――ハングレ・ハートっていうんだけどさ。
それを使って、こういうスーツに変身したり、ロボットを操縦したりするんだ」
「ハングレ・ハート……」
「ハングレールの女は、子供の頃から、自分の乗るロボットとか、スーツのデザインを想像するんだ。
ハングレ・ハートは、そういうのを中に吸い込んで、大きくなっていく」
「その……光ってるのが、そうなんですか?」

母さんの胸が、眩く、青く光っていた。
その上に手が置かれてなければ、誰も目を開けていられなかっただろう。

「うん。それでさ、さくらちゃんには、コトリのハングレ・ハートで、倫太を操縦してもらいたいんだ。コトリ!出して」
「…………」

今度は、コトリの胸が輝き出す。
光は、山吹色だ。
しかしその輝きの眩さと相反してコトリの表情は、不景気というか、辛気くさいというか、非難がましいというか、恨みがましくて……誰もがイヤな予感を抱いたのを確認したかのごとく頷くと、そのまま上目遣いになって、コトリは口を開いた。

「昔……女の子と、男の子がいました」

【改訂版】<12>いよいよ、僕は人間でないらしく ~だったら、人間じゃなかったら何なんだよって、今回はそんな話~

「あんたは、人間じゃない。まあ、アタシもなんだけどさ」

時は18世紀
徳川家重が将軍になったり、リスボン大地震が起こったり、ピョートル三世がクーデターで廃位させられたりしていた頃、ハレー彗星が地球に接近したその年に、僕たちのご先祖様は地球を訪れたのだという。

ハングレールっていう星から来たらしいんだけどさ……父さんじゃなくて、アタシの側の先祖が宇宙人だったんだ。生まれた星がどうにかなったとかじゃなくて……宇宙を旅して、気に入った星があったらしばらくっていうか、何百年かそこで暮らしてまた別の星を探しに行くって感じ?だったみたいでさ……いまでいう、ネットカフェ難民?みたいな?」
「じゃあ、僕も宇宙人……」
「ああ、違う違う。あんたは……」
「僕は?」
「あんたは、ロボット
「ロボット!?」
思わず出てしまった大きな声に、逆に、場が静まりかえった。

いまリビングのテーブルを囲んでいるのは、僕、母さん、狛江さん、メル、それから叔母のヒカリとコトリ――要するに、家にいる全員だ。

叔母二人の服装は、基本的に僕がジャイアントスイングをかけられた頃と変わっていない。違いを指摘するなら、ヒカリはいまや完全にゴスロリ。コトリは中学ではなく、どこで手に入れたのか、どこかの会社のOLの制服だということくらいだ(ニートなのに)。

「宇宙を旅するっていうとさ、当然どこに行ってもアウェイ状態?味方なんていないわけでさ……シャバいこと、やってらんないじゃん?それでさ、こう……ビッとした」
武装?
「そうそう。武装(どうぐ)が必要になるわけよ。ハングレールの女には、そのための能力があってさ、どういうのかっていうと……」
「いうと?」

「自分の旦那とか彼氏を、ロボットにする能力なんだ」

「って、ロボットにするって、どうやって!?」
「粘膜を通じたナノマシーンの注入」と、ヒカリが頬を赤くする。
「……具体的にいうと、性行為」と、コトリは指で作った輪に人差し指を出したり入れたり。

「ちょ、ちょっと性行為って……僕は、」
童貞?」とメル。
「……そうだよ。悪いかよ」僕がむくれると、
「自分も……経験ナイから」と、狛江さん。
それはなんだか、とっても嬉しくなる情報だった。

母さんが、お茶をずずっと啜って続けた。
「倫太の場合はさ、妊娠中から改造が始まってた」
「じゃあ、生まれたときから……」
「うん、ロボット」
「えぇっ!?」

ロボットであるというのがどういうことなのか、具体的には分からないのだが、なぜだか、がくっときた。

「ロボット…武装……」
一方、狛江さんはといえば、腕組みして唸りながら、ちろちろ僕を見てる。
っていうか……
「ちょ、ちょっと狛江さん!もしかして、僕の股間を見てない!?」
「み、見てない!自分、断じて、見てない!」
「確かにそこに隠されているのはビッグマグナムかもしれませんが、いま話に出ている武装とは、本当の意味での武装でしてねぇ」
と、メルが邪悪な笑みで放った嫌味に
「ふっざけんなよ!自分が、その、自分が見てたのは!未開封美品とか!そういう言葉が浮かんだからで!それだけで!それだけで!」
「なお悪いよ!」
「えぇええええっ!?」

狛江さんが慌てたところで、携帯が鳴った。
バイブに震えるシャンパンゴールド――母さんのだ。

「はい、あたし。ああ、そう。うん……まあ、ちょうどいいかな」

ちょうどいい?
とっさに、僕は、狛江さんを見てた。
狛江さんも、僕を見てた。
着信音からすると、いま母さんが話してる相手は、父さんだ。
これまでの話からすると――父さんも、ロボット。

「いま、倫太に話してたんだ。『あんたは、ロボットだ』って」

「はい。どうぞ」と、ヒカリが僕に差し出したのは、おもちゃめいた薄さのメガネだった。
「どうぞ」と、コトリが狛江さんに差し出したのも、おもちゃめいた薄さのメガネだった。
かけてみろ、ということだろう――かけてみた。

視界に、薄茶色のフィルターがかかった。
母さんの声を聞きながら、僕は、視線を動かしていった。

「ハングレールが、行った先々の星で、どうやって金を稼いだかっていうと」

メガネのフレームに囲まれた楕円の中を、メルが、コトリが、ヒカリが、右から左へと動いて、通り過ぎていく。

「ロボットで、戦ったんだ」

母さんも、メガネをかけていた。

「ハングレールのロボットでしか倒せない敵が、宇宙にはいるんだ」

母さんも狛江さんも、メガネを僕と同じ向きに動かしている。
メガネが、止まった。

メルが、言った。

「彼らは、観念獣(イデア・モンスター)と呼ばれています」

窓の外の景色――その真中に、怪獣が立っていた。

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