高校に入学して、三ヶ月が経った。

まず僕が訴えたいのは、狛江さくら(以下、狛江さん)が、凄い美少女だということだ。

狛江さんが、どれくらいの美少女かといえば――いまも教室では、こんな噂話が囁かれている。

「狛江さん、入学式の帰りに喧嘩してたって本当かな?」
「ほんとうだよ。駅の近くの交差点でしょ? それって、相手は、うちのお兄ちゃんの大学の先輩だったみたい。みんな柔道とか格闘技をやってる人だったんだけど…」
「相手は一人じゃないの?」
「うん。五人いたんだけど、みんな奥歯が無くなっちゃって、歯医者に行ってる」
前歯じゃないのかよ」

と、そんな内容なのだが、そんな恐ろしい噂が流れてるにもかかわらず、僕が最初にその噂を聞いた週だけで十二人が狛江さんに告白し、その後三ヶ月での累計はユニークユーザ数で百七十六人にまで達している。
 
つまり狛江さんは、そんな噂話を聞いたくらいでは、好きになってしまった気持ちを抑えられないくらいの美少女なのだった。

現時点で僕が得ている狛江さんについての情報といったら、まだまだごくごく僅かでしかなくて、日本人のお父さんと、スウェーデンポップスの歌手として来日したフィンランド人のお母さんとの間に生まれた日芬ハーフらしいとか、制服の上に学校指定のジャージの上下を着るという彼女のスタイルが、中学時代から続くものらしいとか、我が校で三年ぶりに発生した『一年戦争』を僅か二日終結させたらしいとか、不良とか真面目とか関係なく、このあたりの中高生だったら一度は聞いたことがある『バイオレンスJC』が、この春『バイオレンスJK』にジョブチェンジしたらしいとか、元『バイオレンスJC』で現『バイオレンスJK』の『狛江さくら』が、噂以上の美少女で校内騒然とかいった、その程度に過ぎない。

ちなみに僕は、件の百七十六人には含まれていない。
しかし、いつ百七十七人目になってもおかしくはない状況だとだけ、言っておこう。