僕は人間でないらしく













ある日、メルティオーレと名乗る不審な美少女が現れ,倫太に告げる。 「あなたは、人間ではありません
同じクラスの、通称“バイオレンスJK”狛江さくらと共に倫太は謎の解明に乗り出す。 「人間じゃなければ何なんだ!?
そして明かされる出生の秘密と過去の誘拐事件の真相倫太とさくらの、熱く激しい戦いが、ここに始まる!

第1話

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【改訂版】<7>附帯世界執行官7号 ~いきなりそんな風に名乗られたらムカつくよね。ムカついてどうするかは人によるけど~

狛江さんの一人称は『自分』だ。
そして基本的に、二人称も『自分』だ。

「っていうか自分……その人、ダレよ?」
「し、知らない人!」
「ふうん……」

狛江さんが腕を組む――大きな胸が、持ち上げられて形を変える。
制服の上から着ているのは学校指定オレンジジャージだ。
スカートの下にも、やっぱりジャージのズボン。

狛江さんの全身のほとんどは、ジャージオレンジに包まれている。
美しい顔立ちも、鼻から下は、チャックを一番上まで上げた襟に隠されていた。

「さっきから見てたけどさ……おっかしいよな~、それ」

狛江さんが立ってるのは、角の向こうの道だ。
さっきから、僕が曲がれずにいる角の向こう。
僕と狛江さんは、時々、この角のところで顔を合わせる

異常だよな~。明らかにあり得ねえよな~……」

そして、学校までの残り五分弱一緒に歩いたりする。
それだけの関係だった。
それだけの関係だけど、いいでしょう?と自慢したくて仕方ない僕だ。

実際、何がきっかけでこうなったのかは、自分でも理由がわからない
と――いまは、そんなこと考えてる場合じゃなかった。

狛江さんの言うとおり、確かに異常だった。

一人に……なってる?」

さっきまで二人の少女がいた場所に、いまは一人の少女が立っていた。
身にまとったドレスは、黒と白が複雑に絡み合って、先ほどの二人が来ていた服と同じデザインが、ところどころに散りばめられている。

先ほどまでの二人より背は低いし、胸も小さいし、生足も出していない。
年齢も二つか三つは、稚く見える
でも、醸し出す雰囲気は――あざとく、ずっと、いやらしかった

ととととと。

いまにも転んでしまいそうな危うい足取りで僕に駆け寄ると、

えい!

少女が、いきなり抱きついてきた
でも突然のこの行為を、僕は、当然のことのようにも感じていた。

何をされても、おかしくはない。

そんな印象のもとでは、どんな行為も当然に思えた。
それより、そろそろ、名前くらいは知っておきたいんだけど……

「わたくし、附帯世界執行官7号(サブセツトドミネーターナンバー7)
メルティオーレと申しまぁす」

あ、名乗った
っていうか、なんなんだ?このいきなりの甘え声は。
不審ではあっても、不快ではないのが厄介なところだった。

やれやれ、とでも言いたげな風情で、狛江さんが訊ねた。
「自分、人間じゃないよね?」
少女が、にっこり笑って答えた。
「はい。附帯世界執行官7号(サブセツトドミネーターナンバー7)ですぅ」
その答えに、狛江さんも、にっこり笑って言った。

「ああ、そう」

とだけ言って、狛江さんは、
「あのさ……自分、さっき天使とか悪魔とかいってたけどさ、でもさ、それ以前に、自分、知ってるから。自分みたいなの、なんて呼ぶか知ってるから。自分みたいなのを、こう呼ぶんだ――『雌犬(ビツチ)』って」
少女――メルティオーレの答えを、ばっさり無視したのだった。

【改訂版】<8>雌犬と呼ぶ女、呼ばれる女~再来なら、元祖がまだ生きててもOKなんだけどね~

「いいえ。『雌犬』でなく、附帯世界執行…
「いいから。自分、何も言わなくていいから。とにかく自分はさ、そのガキに迷惑かけられてるんだよね――三上君
「う、うん。まあ、そうだね」
「えぇ!?迷惑だなんて、ひどいですぅうう

そう……そうだよな
ちょっと苛ついた風に目を眇めて、狛江さんが頭を振った。

僕は、思い出していた。

狛江さんは、近隣でこう呼ばれている人なのだった。
バイオレンスJK
もしくは、
麗レイコの生まれ変わり』と。
まあ、麗レイコ――僕の母さんはまだ死んでないんだけど(性が変わっただけで)。

武勇伝は数知れず。
僕も一度、狛江さん喧嘩しているところを見たことがあるけど、そのときは自転車を武器に、一人十人と戦っていた。
結果は、もちろん狛江さんの圧勝だ。

もう一度、頭を振って、狛江さんが言った。
「自分さ、助けてあげるから待ってて――三上君」

狛江さんが、こちらに向けて歩き出す
しかし……

「?」

しかし……

「?」

しかし、

「……なんだこりゃ?」

こちらに向かって歩いてる狛江さん。
狛江さん自身は歩いてるつもりなんだろうけど、僕の側からは、同じ場所で足踏みしているようにしか見えなかった。

つまり、自販機の前より、こっちに進めていない
さっきの僕も、きっとあんな感じだったに違いない。

ところでだ――自分の胸元に向けて、僕は訊ねた

「メルティオーレさんは、どうしてこんなことしてるの?
「こんなことってぇ……こんなことですかぁ?

って言いながら、人差し指で僕の胸をクリクリって……違う!

「いや、そんなんじゃなくて、どうして、僕の所に来て、こんな……」
そ・れ・じゃ・あ――こんなことぉ?」
「いや、違う!シャツの合わせ目にをあてて、熱い息を吹き込んだりとか、甘い香りが首の所から直接鼻のあたりまで漏れ出てきてたまらんとか、そういうんじゃないから!」
ええぇ~?
「いや、じゃ、その、一番単純に聞きます!メルティオーレさんは、どういった理由で、僕に会いに来たんですか?」
「うーん、それはぁ。倫太さんが、
僕が?
「にんげ…」

がらがしゃん!

メルティオーレの声を遮ったのは、狛江さんの立てた音だった。
正確には、彼女の足下に転がる、ジュースの缶や、ペットボトルが立てた音だ。
狛江さんが、自販機の脇のゴミ箱を倒して、中身をアスファルト散乱させたのだった。

「おおぅ」

ちょっと驚いた様子を見ると、わざとゴミ箱を倒したわけではないらしい。
そこまでは、なんとか理解できた。
でも、どうして?
どうして、狛江さんは……

「へええ……そういうこと?(ニヤリ)」

……どうして、みるみる笑顔になっていくんだろう?

【改訂版】<9>敗北するメルティオーレ ~もう許してー、なのでございますぅ~

「へっへぇ~」
いまや、満面の笑みだった。

ポケットに手を突っ込んで取り出したのは、ごついヘビ革のウォレット。
ばちんとボタンを開けて取り出した千円札を、自販機に入れながら、

「三上君、そいつ、押さえといてくれる?どんなんでもいいからさ。そいつが、そこから動けないようにしといてよ」

っていわれても、そもそも抱きつかれて動けなくされてるのは、僕の方なんですけど……
(まあ、いいか。仕方がないか……やるしかないんだ)
心の中の声は、決心というか、自分への言い訳といった方が近かったかもしれない。

ぎゅっ。

僕は、僕に抱きついてるメルティオーレ身体に腕を回して、彼女を抱きしめて固定して、動けなくさせた――細くて丸くて柔らかな身体。
胸元でこぼれる、小さな悲鳴

「ひゃふん」

「ご、ごめん!力、強かった?」
だらしなく慌てた次の瞬間、

ごつん。

僕のを、何かが強打した。
冷たくて、固くて、でも微妙な弾力があって、とにかく確かなのは、

「ああ、ごめんごめん。手元が狂った(棒)」

それが、狛江さんによる打撃であるということだけだった。

(殴られた!?)

しかし、狛江さんの立ってる場所は、さっきと同じだ。
自販機のところから、こちらに近づいたわけではない。
では、どうやって?

「理科の時間に、先生が言ってたんだけどさ」

話しながら、狛江さんが自販機のボタンを押す。
がたん。
取り出し口に落ちた品物を、屈んで取り出す。

「光が目に届いて……それで、人間は物を見てるって。それって光が届かなければ、何も見えないってことだよな。自分の目には、三上君のことが見える。だから……光は届いてる。自分はそっちに通れないけど、光は通れる――何もかもが通せんぼされてるってわけじゃない

またボタンを押して、がたん。取り出す。

「ま、偶然なんだけどさ」

ボタン。がたん。取り出す。
僕は気付いた
狛江さんの足下で倒れた、ゴミ箱に。
そこから転がり出た、空き缶に。

お茶のペットボトル、コーヒーのスチール缶――それらのどれも、自販機よりこちら側に転がりだして来たりはしていない。
どれも、境目で止まっている

でも――僕は、足下を見て確かめる。

ごろり……

そんな音が聞こえてきそうな無骨さで、それは、そこに転がっていた
大きなへこみは、地面に落ちた時に出来たんだろうか?
それとも、僕の鼻にぶつかった時?

「どんな基準かは知らないけど……どうやらこいつも、そっちに行けるみたいでさ」

こいつとは――狛江さんが振って示してる、炭酸飲料アルミ缶
視線を移せば、同じジュースの空き缶が四本、狛江さんの足下から、自販機の境界線越えて、こちらに転がり出していた

そして狛江さんの右手に、やはり同じアルミ缶が、四本。左手にも、四本。
いずれも、サイズは三五〇MLだ。

もう一度、狛江さんが言った。

「三上君、そいつ、押さえといてくれる?」

ぎらりと光る、狛江さんの目。
そして同じく光る、八本のアルミ缶

つまり、狛江さんは……
ガツーンといくからさぁ」
……メルティオーレに、中身の詰まったアルミ缶ぶつけようとしているのだった。

「あ、ちょ、ちょっと待って、狛江さん……」
「んん、どうしたぁ?三上君」
「もう、許してあげてもいいんじゃないかな。だって、あの、その、このひと――」
「だから、どうしたって……」
「この人――もう、泣いてる!
「はあぁ!?」

「ひ、ひっく。ひっく……あんなの当てられたら、わたくし、しんじゃいますよぉ」

ついさっきまでのエロい強気はどこに行ったのか、あられもなく泣きじゃくるメルティオーレ。その弱々しさは、僕の中の擁護欲支配欲を同時に掻き立てるのに十分で、結果として、さっきより、ずっと、更に、あざとくエロかった

「うっく、ひっぐ、いっぐ……もう許して~なのでございますぅ。えぐえぐ」

しかし、狛江さんには……
「うん!やっぱ二、三個、当てとくわ!百パーセントだ――殴られてもいないのに降参するこういうヤツはさ、百パーセント、腹の中舌を出してるもんなんだよ」
……そんなの、全く通用しないのだった。

「び、びっぐげぐ、が、ぐばばば……」

わかりやすく狼狽するメルティオーレ――さすがに僕も庇いようがない。
まあ、庇う理由もないんだけど。

さて、どうなることか……

【改訂版】<10>メルと狛江さん ~見下してるのは否定しないらしい~

……結局、
「きりきり働け。このうすのろ」
「いたい。いたい。いたい」
デコピン3発で手を打つことになり、現在は、額を抑えて痛がるメルティオーレの背中を狛江さんが蹴飛ばし、散らかった空き缶の片付けをさせてるところだ。

「『うすのろ』は止めてくださ~い」
「あぁん!?『メルティオーレ』なんて、長くて呼んでらんねえんだよ!」
「『メルちゃん』って呼んで、いいですよ?」
「殺すぞ?」

こうして見ていると、とても初対面とは思えないというか、
(実はこの人たち、仲良いんじゃない?)
的な光景だった。

「狛江さん、これってどうする?」

問題は、狛江さんが買った炭酸飲料だった。
八本あるそれは、件の自販機の前を通るたび、
(誰が飲むんだこんなの?)
って僕が疑問に思ってたマイナーな銘柄のメロンソーダで、印象としては、三年に一度、なにかの罰ゲームで飲めば充分って感じの製品だった。

「僕、お金はらうよ」
「いいって、三上くん。気にするなって」
「だって、狛江さんが僕のために買ってくれたんだし……」
「ば、ばか……そんな気、使うなって……そ、そうだ!こんなのこいつに飲ませればいいんだ!おい!自分、飲めよ。うまいぞきっと。ほら、チョコレートも入ってるってよ!」
「ひ、ひぃいい。そんな!メロンの種を模したホワイトチョコレートなんて、入ってても嬉しくありませ~ん」
「おらおら。飲め飲め」
「ぐりぐりしないでぇ。ぐりぐりしないでぇ~」

やっぱり仲良いな、この人たち。

「ところでさ、メルティ…」
「メ・ル・ちゃ・ん(はあと)」
「メル。さっきは、途中までしか聞いてなかったよね。君が、僕のところに来た理由」
「はい。わたくしが……ちらっ」

「?」

言葉を切り、メルが視線を遣った先には……メロンソーダでお手玉する狛江さん。
そして、非常に言いづらそうに……

「あのぉ。狛江さんは、ちょっと席を外してもらえると有り難いのですが」
「あん?どうして?」
「それは……おそらくわたくしが倫太さんに会いに来た理由を話し終わる前に、狛江さんが、わたくしのことを殴るに違いないからです」

「はぁ?」
「あ、いや、なんとなくわかるというか……」
「えぇ!?三上君まで?」

「あのさ、その……狛江さんは、メルのことを見下してると思うんだ」
「ああ、そうだな」
「それでね、多分、メルが僕に会いに来た理由って、多分、すごく込み入ってると思うんだ。そしてそんな込み入った説明をしている人が、どんな表情をしてるかっていうと」
「ドヤ顔だな」
「ドヤ顔ですね」
「ドヤ顔だよね……狛江さんは、メルにドヤ顔されたらどう思う?」
「ギロッ(訳:ぶっ殺す)」
「ひぃっ!」

「だから、まずは僕がメルから話を聞いて、それから内容を整理して、狛江さんにも話そうと思うんだけど……」
「そうだな。自分も関わったことなんだし、知らないままじゃ、すっきりしないしな」
「じゃあメル。まずはあっちで、僕に話してくれる?」
「はいですぅ!」
「言っとくけど、耳元に話しかけるふりをしていきなり息を吹きかけたりとか、耳たぶを甘噛みするとかは、なしだからね」
「残念ですぅ!」
やっぱり、企んでたか………

「あのデスね、実はデスね、こそこそこそ……」

………そして一分後。

「ごめん!狛江さん!!!」

僕は、狛江さんに土下座まがいの謝罪アクションをするはめになっていた。

【改訂版】<11>僕は人間でないらしく ~『天使です』とか、さすがに思ってるままを言うわけにはいかなかった~

「ど、どうしたの!?自分――三上君」
「狛江さん、話したら、話の途中で僕のこと殴るかもしれない。ドヤ顔とか別にして!あまりに信じがたくて!」
「おいぃ!自分、自分のことどう思ってるの!?三上君の中の自分って、どんなよ!?」
「今ここにいるままの、暴力モンスターですよ」ボソッと言ったメルを、
「自分には訊いてねえ!」狛江さんがデコピン。
「ふんがふっ!」

「っていうか、どれだけ信じがたいっていっても!大体!そもそも!ぐるぐる同じところ回らされたりとか、黒いのと白いのが出てきて合体とか、その時点で十分ありえないだろうが!普通ならその時点で帰ってるだろうが!それなのに自分は!この狛江さくらは!いま!ここにいる!なんとか状況に食らいついている、自分のこの、なんというか、数学的思考に基づく判断力というか……意外と融通のきく性格を評価してもらいたいんだ!こう見えても、自分、家ではロジカルシンキングの本とか読んだりしてるんだよ!クレーム処理のコツとか!ディベートの本とかも!」

「ごめん、狛江さん。じゃあ、結論だけ話すね」
「……うん」
狛江さんに――というのは半分だけで、もう半分は自分自身に向けて――僕は言った。

「僕……人間じゃないらしいんだよね」

僕のこの告白に――
目を眇めて、
「へえ」
とだけ、狛江さんは言った。

「くわしい話は、うちの母親に聞こうと思う。もし、母親の話がメルが言ったのと同じだったら――本当だってことだと思う」
「母親って……」
「うん、麗レイコ。いまは三上レイコだけどね」
「そうか……レイコさんも、関係してるんだ」

狛江さんが、母さんのことを『レイコさん』と呼んだことに、ちょっと違和感はあったけど、でも、

(当然だよな)

とも思う。
だって、狛江さんは『麗レイコの生まれ変わり』と呼ばれてる人なんだから。

「狛江さんも、さぼってうちに来る?」
誘ってみたら、
「うん」
と、狛江さんが笑った。
狛江さんの頬は何故か赤くて、多分僕の頬も赤い。
だって、とても熱かった。
「あー、熱いな」
狛江さんも、言ってるし。

「メルちゃんも、行きますよ!はぁあ。熱い熱い」
メルは、どうでもいいけど。


家に帰ると、父さんはもう仕事に出ていた。
玄関で僕らを見て、母さんは、
「ありゃ」
と、驚いた顔をしたあと目を逸らし、
「へへ~」
と、笑った。

その後ろではコトリとヒカリが、
「お~か~え~り~」
と、さっき僕を見送った時と同じく、胴体を不気味に震わしている。

だから、箸と茶碗くらい置いてこいと……コトリも!ヒカリも!母さんも!

「お~じゃ~ま~し~ま~す~」
メルも狛江さんも、真似しなくていいです。


●●

そして…………

●●●

「うん、そうだ」と、母さんはあっさり頷いたのだった。

【改訂版】<12>いよいよ、僕は人間でないらしく ~だったら、人間じゃなかったら何なんだよって、今回はそんな話~

「あんたは、人間じゃない。まあ、アタシもなんだけどさ」

時は18世紀
徳川家重が将軍になったり、リスボン大地震が起こったり、ピョートル三世がクーデターで廃位させられたりしていた頃、ハレー彗星が地球に接近したその年に、僕たちのご先祖様は地球を訪れたのだという。

ハングレールっていう星から来たらしいんだけどさ……父さんじゃなくて、アタシの側の先祖が宇宙人だったんだ。生まれた星がどうにかなったとかじゃなくて……宇宙を旅して、気に入った星があったらしばらくっていうか、何百年かそこで暮らしてまた別の星を探しに行くって感じ?だったみたいでさ……いまでいう、ネットカフェ難民?みたいな?」
「じゃあ、僕も宇宙人……」
「ああ、違う違う。あんたは……」
「僕は?」
「あんたは、ロボット
「ロボット!?」
思わず出てしまった大きな声に、逆に、場が静まりかえった。

いまリビングのテーブルを囲んでいるのは、僕、母さん、狛江さん、メル、それから叔母のヒカリとコトリ――要するに、家にいる全員だ。

叔母二人の服装は、基本的に僕がジャイアントスイングをかけられた頃と変わっていない。違いを指摘するなら、ヒカリはいまや完全にゴスロリ。コトリは中学ではなく、どこで手に入れたのか、どこかの会社のOLの制服だということくらいだ(ニートなのに)。

「宇宙を旅するっていうとさ、当然どこに行ってもアウェイ状態?味方なんていないわけでさ……シャバいこと、やってらんないじゃん?それでさ、こう……ビッとした」
武装?
「そうそう。武装(どうぐ)が必要になるわけよ。ハングレールの女には、そのための能力があってさ、どういうのかっていうと……」
「いうと?」

「自分の旦那とか彼氏を、ロボットにする能力なんだ」

「って、ロボットにするって、どうやって!?」
「粘膜を通じたナノマシーンの注入」と、ヒカリが頬を赤くする。
「……具体的にいうと、性行為」と、コトリは指で作った輪に人差し指を出したり入れたり。

「ちょ、ちょっと性行為って……僕は、」
童貞?」とメル。
「……そうだよ。悪いかよ」僕がむくれると、
「自分も……経験ナイから」と、狛江さん。
それはなんだか、とっても嬉しくなる情報だった。

母さんが、お茶をずずっと啜って続けた。
「倫太の場合はさ、妊娠中から改造が始まってた」
「じゃあ、生まれたときから……」
「うん、ロボット」
「えぇっ!?」

ロボットであるというのがどういうことなのか、具体的には分からないのだが、なぜだか、がくっときた。

「ロボット…武装……」
一方、狛江さんはといえば、腕組みして唸りながら、ちろちろ僕を見てる。
っていうか……
「ちょ、ちょっと狛江さん!もしかして、僕の股間を見てない!?」
「み、見てない!自分、断じて、見てない!」
「確かにそこに隠されているのはビッグマグナムかもしれませんが、いま話に出ている武装とは、本当の意味での武装でしてねぇ」
と、メルが邪悪な笑みで放った嫌味に
「ふっざけんなよ!自分が、その、自分が見てたのは!未開封美品とか!そういう言葉が浮かんだからで!それだけで!それだけで!」
「なお悪いよ!」
「えぇええええっ!?」

狛江さんが慌てたところで、携帯が鳴った。
バイブに震えるシャンパンゴールド――母さんのだ。

「はい、あたし。ああ、そう。うん……まあ、ちょうどいいかな」

ちょうどいい?
とっさに、僕は、狛江さんを見てた。
狛江さんも、僕を見てた。
着信音からすると、いま母さんが話してる相手は、父さんだ。
これまでの話からすると――父さんも、ロボット。

「いま、倫太に話してたんだ。『あんたは、ロボットだ』って」

「はい。どうぞ」と、ヒカリが僕に差し出したのは、おもちゃめいた薄さのメガネだった。
「どうぞ」と、コトリが狛江さんに差し出したのも、おもちゃめいた薄さのメガネだった。
かけてみろ、ということだろう――かけてみた。

視界に、薄茶色のフィルターがかかった。
母さんの声を聞きながら、僕は、視線を動かしていった。

「ハングレールが、行った先々の星で、どうやって金を稼いだかっていうと」

メガネのフレームに囲まれた楕円の中を、メルが、コトリが、ヒカリが、右から左へと動いて、通り過ぎていく。

「ロボットで、戦ったんだ」

母さんも、メガネをかけていた。

「ハングレールのロボットでしか倒せない敵が、宇宙にはいるんだ」

母さんも狛江さんも、メガネを僕と同じ向きに動かしている。
メガネが、止まった。

メルが、言った。

「彼らは、観念獣(イデア・モンスター)と呼ばれています」

窓の外の景色――その真中に、怪獣が立っていた。

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