それにしても何となくモヤモヤしてしまうのは、狛江さんが、お祖母ちゃんの話を信じきってる風だということだ。

僕のお祖母ちゃんということは、狛江さん視点では身内に該当しているだろうことは、想像に難くない。そして狛江さんには、身内限定の性善説みたいなものがある。

だから(それかな?) とも思ったけど……でも実際は、全然違うんじゃないかって気もする。

これまで僕は、お祖母ちゃんの話を、半分以上ウソなんだと思っていた。

ガン◯ムの監督と知り合いとかいうのは、あまりに現実味がなかったし、母さんの『あのババア、適当なことばっか言いやがって……』の枕詞から始まる、お婆ちゃんディスりタイムも少なからず影響していた。

でも今は、ちょっと違う。
以前の様に、疑ってはいない。でも信じているわけでもない。 
言うなら、信じる信じない以前の段階に戻っている。

居間に戻ってくるなり、狛江さんが言った。
「親父が、店でごちそうしたいって言ってるんですけど……」

「嬉しいわあ。さすがリョウタ君は、気が利くわよねえ」お祖母ちゃんは、礼儀としてこういう話を断らない。「やっぱり、和也とは違うわよねえ」そして、父さんをディスることを忘れない。

ささっとテーブルを片付けて、先頭で居間を出た――と思ったら、既に玄関を出て、携帯でタクシーを呼んでるおばあちゃん。

僕はまだ、居間を出てすらいないというのに――肘を突つかれた。

見ると狛江さんが、
(どうしたよ?)って顔で微笑っている。

「なんでもない」
言って、僕は狛江さんの手を握った。

「へ、へー。ニヤニヤしてるから、何かと思ったんだけどー(棒)」

ちょっと赤くなって俯く狛江さんを見ながら、僕は思う。

(狛江さんみたいな娘と付き合えたらいいのにな)
って――そして、はっとなる。

(狛江さんは、僕の恋人なんだ)

きっと一ヶ月前の僕だったら、信じられなかっただろう。
でもこれは、本当のことだ。

いつか、何の話題でだったかは忘れたけど、狛江さんが言ってた。

「そうだったら、おもしれーよな!」
って。

僕も、同じだった。
お祖母ちゃんの話を聞きながら、母さんのお祖母ちゃんディスを聞きながら、心のどこかで思っていた。

(本当だったら、面白いのにな)
って。

ハングレールのことを知って、僕の世界は変わった。

以前までなら、ウソでしかあり得なかったようなことが、本当であってもおかしくない世界に。
狛江さんが僕の恋人になってくれるだなんて、ウソみたいなことが本当になってしまう世界に。
 
だから、僕はもう、お祖母ちゃんの話を疑っていない。
だってこの世界では、ウソよりも、本当のことの方がずっと多いんだから。

またも僕は、ニヤニヤしてたのだろうか?

「まったく、おもしれーよな?」
狛江さんが、顔をくしゃりとさせて、笑った。

やはりというか、当然というか、異常に可愛い笑顔で、改めてドキドキして、今度は僕が赤くなる番で、照れ隠しとか、それで勢いがついたからとかいうわけでもないんだけど、僕は、以前から気になってたことを、お祖母ちゃんに訊いてみることにした。

「ねえお祖母ちゃん。母さんが不良になったのって、ハングレールのことと関係あるの?」
「ううん。育て方を間違えただけ」

その後の五分間、僕は、なんとも言えない気持ちでタクシーを待つしかなかった。