母さんの特技のひとつに、車の調達がある。

どんな時間でも、どんな場所にいても、電話ひとつで車を貸してくれる仲間が、母さんにはいる。
そうやって調達した車で、まずは狛江さんを家まで送って、それから家に帰った。

その間、後部座席の僕が目を覚ましたのは、狛江さんを降ろして、再び出発したときくらいだった。『狛江亮太』『さくら』。表札には、その二つの名前しかなかった。

夢の中で、誰かが喋っていた。


僕は聞く。


お父様とは、初対面のはずでしたよね?
お父様がロボットになったとき、わたくしみたいなモノは、訪ねて来ませんでしたよね?

当然です。ロボットとはいっても、それでも人間の範疇をはみ出すわけではありません。

倫太さんは、違います。
ロボットだから、ではありません。
ロボットどころではないから、わたくしが遣わされたのです。

本来のハングレールに、男性はいなかったはずです。
行く先々の星で男性を調達し、子を増やす。
それが、ハングレールの繁殖方法――違いますか?お母さん。
二億年の歴史で、ハングレールの男性は、わずか三人しか生まれていない。

だからなのでしょう?

三人のハングレール男性が操縦を任せたのは、ハングレール以外の女性に対してのみ。
ハングレールの女性には、決して操縦を許していません。

だからあなたでもあなたの妹さん方にでもなく、地球人の女性に、倫太さんの操縦を任せたのでしょう?

注視すべきと考えているのですよ。

観念獣から進化した、いわばイレギュラーな存在であるあなたがたハングレールの中でも、さらにイレギュラーな存在である、倫太さんをね。

わたくし?

わたくしは、附帯世界執行官七号メルティオーレ
ちなみに七号というのは、設定された態度の種類を表すコードであり、決して、わたくしの個体番号を示すものではありません。個体としての区別を適用するなら、いまのわたくしと、いまのわたくしと、いまのわたくしは、すでに別人といえるでしょう……喩えではありません。実際に、まったく別のわたくしと入れ替わっているのです。

ためしに、個体ごとに顔色を変えてみましょうか?
ほら……ああ、すみません。酔いましたか?
どこかに車を停めて、吐いちゃいますか?
ああ、そうですか。我慢できますか。

ちなみにわたくし、倫太さんに会いに行ったとき、不注意でふたつの個体を同時に向かわせてしまいまして、それで多少の混乱を招いてしまったようです。

まあ、小芝居でごまかしましたけど。

わたくしたちのバックグラウンドについて語ることは、現時点では、お互いに不利益となりかねません。よって、今後もその件につきまして倫太さんからの突っ込みが入った場合には、すっとぼける方向で行く所存でございますので、どうかご協力をお願いいたします」


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僕は忘れる。