父さんから送られてきたデータだと、観念獣との戦いでは、接近戦は少ないみたいだ。
ほとんどの戦闘は、500メートル以上離れての攻防だけで決着がついている。

ちなみに僕が変身したこのロボットだけど、マニュアルによると、こんな名前らしい。

『お兄ちゃんロボ』

さっきのコトリの独白を、思い出さざるを得ない名前だった。
しかし、憂鬱になってる暇はない。

既に、観念獣の攻撃が始まっていた。
観念獣の弾丸とも光線ともつかない攻撃は、それを放つ本体と同じく、形容しがたい外見をしていた。

色も、形も不定形。

あえて喩えるなら、パレットで暗いというか汚い色の絵の具を何色も混ぜあわせているところへ更に新しい絵の具を足し続け&混ぜ続けているような、終わらない色と形の変化――物とも現象ともつかない何か。

そんな何かが、超スピードでこちらに向かってくる。
しかし一体、あれを何と呼べばいいのか……

A回線で、母さんが叫んだ。

「来たよ!ウンコ爆弾!パパは平気だけど倫太は出来るだけ避けて!」

そうか。
そういうセンスでいいんだ……

「お兄ちゃんミサイル!お兄ちゃん破壊銃――当たった!お兄ちゃんビーム!お兄ちゃんフラッシュ!」

観念獣の攻撃を避けながら、狛江さんと僕は矢継ぎ早に攻撃を繰り出す。

一方、母さんたちはというと……

「デッパカッター!」

ぶ厚い装甲で敵の攻撃を跳ね返しつつ、威力の大きな、でも発射まで時間のかかる兵器で攻撃、というパターンだった。

僕たちの
「お兄ちゃんフィンガーミサイル――親指!人差し指!中指!薬指!小指!」
と、父さんたちの
「ギャラクシー・トルエン!」
で比べてみると、敵に与えるダメージは、見た目的にもデータ的にも父さんたちの方が大きいし、効率の面ではまったく比較にならなかった。

まあ、いいか。
こっちは初心者だ。

FE回線というのを見つけて、僕は話しかける。


「ねえ、聞こえる?そこにいるんだろ……メル


「はいはい、聞こえてますよ。それにしてもここって、何のための場所なんですかねえ?」
「怪我人を見つけて、保護したりするために使うみたい」
「ふうん。確かに、全然ゆれたりしませんもんねえ」

メルが寝ころがっているのは、コクピットから10メートルほど下にある、四畳半くらいの広さのスペースだ。

僕がロボットへの変身を終えたときには、メルは既にそこにいた。

ロボットにメルが忍び込んでるのを、知ってるのは僕だけだ。
狛江さんは知らないし、この会話も、僕とメルにしか聞こえていない

気になってたことを、訊ねてみた。

いまここで、彼女から聞かなければいけない気がする問いだった。
いまここで、彼女からしか聞けない気がする問いだった。

僕は訊いた。

「メル。観念獣って、なんなの?」