怪獣――大きさは、街で一番高いビルでも、ようやく膝に届くかってくらい。
どんな生物にも、どんな乗り物にも、どんな建物にも似ていなくて、要するにそいつは『××を大きくしたような』って表現が、まったく適用できない姿をしていた。

横を――僕は、狛江さんを見た。
狛江さんも、僕を見てた。

「あいつらは、あんたらがいまかけてる『妖精眼』ってメガネじゃなきゃ見えない」

再びメガネのフレームに現れた母さんは、いつものトレーナーにジーンズじゃなかった。
プラスチックで出来た特攻服、とでもいったら良いだろうか?

「裸眼でやつらを見れるのは、ハングレールの女だけなんだ。
『妖精眼』は宇宙のどこの星にもある――地球にも、元々あったっていう。
でも、奴らと戦う力を持ってるのは、ハングレールのロボットだけだ
だから、ハングレールの女は、宇宙のどこに行っても大事にされる――モテモテだ」

母さんが、狛江さんの顔をのぞき込むように見た。
そうしながら話を再開した――理由が、僕にはわかっていた。
ほとんど確信に近い、予感だった。

「あのさ、頼みがあるんだけど」

「はい」

応える、表情を見てわかった。
狛江さんもまた、僕と同じ予感を抱いているに違いなかった。

「さっきから言ってる通り、倫太はロボットなんだ。
ロボットっていうのは、操縦するもんだ。
漫画だと、自分で勝手に動くロボットもあるけど、でもハングレールは、そういうのはロボットって呼ばない――自分で動くのは生き物だ。
ロボットは、誰かに操縦されなきゃ動けない。
だから……ロボットの倫太にも、操縦してくれる誰かが要る

「はい」

「倫太を操縦してやってくれないかな……悪いんだけど、理由はいえないんだけどさ。
アタシでなく、コトリでもなく、ヒカリでもなく……これは、狛江さんにしか頼めないんだ」

予感はあたっていた。
もし僕が、同じ状況で、同じ頼みをされたら、どうするだろう?
やっぱり、不安になるだろう。
『自分で、大丈夫なんですか?』なんて訊いてしまうだろう。

でも狛江さんは、
「はい。自分、やらせてもらいます」
即答だった。

母さんが、目を線にして笑った。
「ありがとう。狛江さんってさ、下の名前『さくら』だよね――リョウタ君の子だろ?知ってるよ」
「親父を、知ってるんですか!?」
「あったりまえじゃん。かっこいい先輩だったもん。覚えてるよ」
「……ウス」
「さくらちゃんの噂、聞いてるよ。『リョウタ君の娘が、すげぇビッとしてる』って」
「………ウス」
「噂通りだよねー」
「………………ウス」

「コトリ!」
「……はい」
呼ばれてコトリが、前に出る。
コトリと母さんと狛江さんとで、三角を描くように立った。
母さんが、スーツの胸の切り込みに手を置いて言った。

「ハングレールの女は、ここに宝石を持っている――ハングレ・ハートっていうんだけどさ。
それを使って、こういうスーツに変身したり、ロボットを操縦したりするんだ」
「ハングレ・ハート……」
「ハングレールの女は、子供の頃から、自分の乗るロボットとか、スーツのデザインを想像するんだ。
ハングレ・ハートは、そういうのを中に吸い込んで、大きくなっていく」
「その……光ってるのが、そうなんですか?」

母さんの胸が、眩く、青く光っていた。
その上に手が置かれてなければ、誰も目を開けていられなかっただろう。

「うん。それでさ、さくらちゃんには、コトリのハングレ・ハートで、倫太を操縦してもらいたいんだ。コトリ!出して」
「…………」

今度は、コトリの胸が輝き出す。
光は、山吹色だ。
しかしその輝きの眩さと相反してコトリの表情は、不景気というか、辛気くさいというか、非難がましいというか、恨みがましくて……誰もがイヤな予感を抱いたのを確認したかのごとく頷くと、そのまま上目遣いになって、コトリは口を開いた。

「昔……女の子と、男の子がいました」