「あんたは、人間じゃない。まあ、アタシもなんだけどさ」

時は18世紀
徳川家重が将軍になったり、リスボン大地震が起こったり、ピョートル三世がクーデターで廃位させられたりしていた頃、ハレー彗星が地球に接近したその年に、僕たちのご先祖様は地球を訪れたのだという。

ハングレールっていう星から来たらしいんだけどさ……父さんじゃなくて、アタシの側の先祖が宇宙人だったんだ。生まれた星がどうにかなったとかじゃなくて……宇宙を旅して、気に入った星があったらしばらくっていうか、何百年かそこで暮らしてまた別の星を探しに行くって感じ?だったみたいでさ……いまでいう、ネットカフェ難民?みたいな?」
「じゃあ、僕も宇宙人……」
「ああ、違う違う。あんたは……」
「僕は?」
「あんたは、ロボット
「ロボット!?」
思わず出てしまった大きな声に、逆に、場が静まりかえった。

いまリビングのテーブルを囲んでいるのは、僕、母さん、狛江さん、メル、それから叔母のヒカリとコトリ――要するに、家にいる全員だ。

叔母二人の服装は、基本的に僕がジャイアントスイングをかけられた頃と変わっていない。違いを指摘するなら、ヒカリはいまや完全にゴスロリ。コトリは中学ではなく、どこで手に入れたのか、どこかの会社のOLの制服だということくらいだ(ニートなのに)。

「宇宙を旅するっていうとさ、当然どこに行ってもアウェイ状態?味方なんていないわけでさ……シャバいこと、やってらんないじゃん?それでさ、こう……ビッとした」
武装?
「そうそう。武装(どうぐ)が必要になるわけよ。ハングレールの女には、そのための能力があってさ、どういうのかっていうと……」
「いうと?」

「自分の旦那とか彼氏を、ロボットにする能力なんだ」

「って、ロボットにするって、どうやって!?」
「粘膜を通じたナノマシーンの注入」と、ヒカリが頬を赤くする。
「……具体的にいうと、性行為」と、コトリは指で作った輪に人差し指を出したり入れたり。

「ちょ、ちょっと性行為って……僕は、」
童貞?」とメル。
「……そうだよ。悪いかよ」僕がむくれると、
「自分も……経験ナイから」と、狛江さん。
それはなんだか、とっても嬉しくなる情報だった。

母さんが、お茶をずずっと啜って続けた。
「倫太の場合はさ、妊娠中から改造が始まってた」
「じゃあ、生まれたときから……」
「うん、ロボット」
「えぇっ!?」

ロボットであるというのがどういうことなのか、具体的には分からないのだが、なぜだか、がくっときた。

「ロボット…武装……」
一方、狛江さんはといえば、腕組みして唸りながら、ちろちろ僕を見てる。
っていうか……
「ちょ、ちょっと狛江さん!もしかして、僕の股間を見てない!?」
「み、見てない!自分、断じて、見てない!」
「確かにそこに隠されているのはビッグマグナムかもしれませんが、いま話に出ている武装とは、本当の意味での武装でしてねぇ」
と、メルが邪悪な笑みで放った嫌味に
「ふっざけんなよ!自分が、その、自分が見てたのは!未開封美品とか!そういう言葉が浮かんだからで!それだけで!それだけで!」
「なお悪いよ!」
「えぇええええっ!?」

狛江さんが慌てたところで、携帯が鳴った。
バイブに震えるシャンパンゴールド――母さんのだ。

「はい、あたし。ああ、そう。うん……まあ、ちょうどいいかな」

ちょうどいい?
とっさに、僕は、狛江さんを見てた。
狛江さんも、僕を見てた。
着信音からすると、いま母さんが話してる相手は、父さんだ。
これまでの話からすると――父さんも、ロボット。

「いま、倫太に話してたんだ。『あんたは、ロボットだ』って」

「はい。どうぞ」と、ヒカリが僕に差し出したのは、おもちゃめいた薄さのメガネだった。
「どうぞ」と、コトリが狛江さんに差し出したのも、おもちゃめいた薄さのメガネだった。
かけてみろ、ということだろう――かけてみた。

視界に、薄茶色のフィルターがかかった。
母さんの声を聞きながら、僕は、視線を動かしていった。

「ハングレールが、行った先々の星で、どうやって金を稼いだかっていうと」

メガネのフレームに囲まれた楕円の中を、メルが、コトリが、ヒカリが、右から左へと動いて、通り過ぎていく。

「ロボットで、戦ったんだ」

母さんも、メガネをかけていた。

「ハングレールのロボットでしか倒せない敵が、宇宙にはいるんだ」

母さんも狛江さんも、メガネを僕と同じ向きに動かしている。
メガネが、止まった。

メルが、言った。

「彼らは、観念獣(イデア・モンスター)と呼ばれています」

窓の外の景色――その真中に、怪獣が立っていた。