「ど、どうしたの!?自分――三上君」
「狛江さん、話したら、話の途中で僕のこと殴るかもしれない。ドヤ顔とか別にして!あまりに信じがたくて!」
「おいぃ!自分、自分のことどう思ってるの!?三上君の中の自分って、どんなよ!?」
「今ここにいるままの、暴力モンスターですよ」ボソッと言ったメルを、
「自分には訊いてねえ!」狛江さんがデコピン。
「ふんがふっ!」

「っていうか、どれだけ信じがたいっていっても!大体!そもそも!ぐるぐる同じところ回らされたりとか、黒いのと白いのが出てきて合体とか、その時点で十分ありえないだろうが!普通ならその時点で帰ってるだろうが!それなのに自分は!この狛江さくらは!いま!ここにいる!なんとか状況に食らいついている、自分のこの、なんというか、数学的思考に基づく判断力というか……意外と融通のきく性格を評価してもらいたいんだ!こう見えても、自分、家ではロジカルシンキングの本とか読んだりしてるんだよ!クレーム処理のコツとか!ディベートの本とかも!」

「ごめん、狛江さん。じゃあ、結論だけ話すね」
「……うん」
狛江さんに――というのは半分だけで、もう半分は自分自身に向けて――僕は言った。

「僕……人間じゃないらしいんだよね」

僕のこの告白に――
目を眇めて、
「へえ」
とだけ、狛江さんは言った。

「くわしい話は、うちの母親に聞こうと思う。もし、母親の話がメルが言ったのと同じだったら――本当だってことだと思う」
「母親って……」
「うん、麗レイコ。いまは三上レイコだけどね」
「そうか……レイコさんも、関係してるんだ」

狛江さんが、母さんのことを『レイコさん』と呼んだことに、ちょっと違和感はあったけど、でも、

(当然だよな)

とも思う。
だって、狛江さんは『麗レイコの生まれ変わり』と呼ばれてる人なんだから。

「狛江さんも、さぼってうちに来る?」
誘ってみたら、
「うん」
と、狛江さんが笑った。
狛江さんの頬は何故か赤くて、多分僕の頬も赤い。
だって、とても熱かった。
「あー、熱いな」
狛江さんも、言ってるし。

「メルちゃんも、行きますよ!はぁあ。熱い熱い」
メルは、どうでもいいけど。


家に帰ると、父さんはもう仕事に出ていた。
玄関で僕らを見て、母さんは、
「ありゃ」
と、驚いた顔をしたあと目を逸らし、
「へへ~」
と、笑った。

その後ろではコトリとヒカリが、
「お~か~え~り~」
と、さっき僕を見送った時と同じく、胴体を不気味に震わしている。

だから、箸と茶碗くらい置いてこいと……コトリも!ヒカリも!母さんも!

「お~じゃ~ま~し~ま~す~」
メルも狛江さんも、真似しなくていいです。


●●

そして…………

●●●

「うん、そうだ」と、母さんはあっさり頷いたのだった。