……結局、
「きりきり働け。このうすのろ」
「いたい。いたい。いたい」
デコピン3発で手を打つことになり、現在は、額を抑えて痛がるメルティオーレの背中を狛江さんが蹴飛ばし、散らかった空き缶の片付けをさせてるところだ。

「『うすのろ』は止めてくださ~い」
「あぁん!?『メルティオーレ』なんて、長くて呼んでらんねえんだよ!」
「『メルちゃん』って呼んで、いいですよ?」
「殺すぞ?」

こうして見ていると、とても初対面とは思えないというか、
(実はこの人たち、仲良いんじゃない?)
的な光景だった。

「狛江さん、これってどうする?」

問題は、狛江さんが買った炭酸飲料だった。
八本あるそれは、件の自販機の前を通るたび、
(誰が飲むんだこんなの?)
って僕が疑問に思ってたマイナーな銘柄のメロンソーダで、印象としては、三年に一度、なにかの罰ゲームで飲めば充分って感じの製品だった。

「僕、お金はらうよ」
「いいって、三上くん。気にするなって」
「だって、狛江さんが僕のために買ってくれたんだし……」
「ば、ばか……そんな気、使うなって……そ、そうだ!こんなのこいつに飲ませればいいんだ!おい!自分、飲めよ。うまいぞきっと。ほら、チョコレートも入ってるってよ!」
「ひ、ひぃいい。そんな!メロンの種を模したホワイトチョコレートなんて、入ってても嬉しくありませ~ん」
「おらおら。飲め飲め」
「ぐりぐりしないでぇ。ぐりぐりしないでぇ~」

やっぱり仲良いな、この人たち。

「ところでさ、メルティ…」
「メ・ル・ちゃ・ん(はあと)」
「メル。さっきは、途中までしか聞いてなかったよね。君が、僕のところに来た理由」
「はい。わたくしが……ちらっ」

「?」

言葉を切り、メルが視線を遣った先には……メロンソーダでお手玉する狛江さん。
そして、非常に言いづらそうに……

「あのぉ。狛江さんは、ちょっと席を外してもらえると有り難いのですが」
「あん?どうして?」
「それは……おそらくわたくしが倫太さんに会いに来た理由を話し終わる前に、狛江さんが、わたくしのことを殴るに違いないからです」

「はぁ?」
「あ、いや、なんとなくわかるというか……」
「えぇ!?三上君まで?」

「あのさ、その……狛江さんは、メルのことを見下してると思うんだ」
「ああ、そうだな」
「それでね、多分、メルが僕に会いに来た理由って、多分、すごく込み入ってると思うんだ。そしてそんな込み入った説明をしている人が、どんな表情をしてるかっていうと」
「ドヤ顔だな」
「ドヤ顔ですね」
「ドヤ顔だよね……狛江さんは、メルにドヤ顔されたらどう思う?」
「ギロッ(訳:ぶっ殺す)」
「ひぃっ!」

「だから、まずは僕がメルから話を聞いて、それから内容を整理して、狛江さんにも話そうと思うんだけど……」
「そうだな。自分も関わったことなんだし、知らないままじゃ、すっきりしないしな」
「じゃあメル。まずはあっちで、僕に話してくれる?」
「はいですぅ!」
「言っとくけど、耳元に話しかけるふりをしていきなり息を吹きかけたりとか、耳たぶを甘噛みするとかは、なしだからね」
「残念ですぅ!」
やっぱり、企んでたか………

「あのデスね、実はデスね、こそこそこそ……」

………そして一分後。

「ごめん!狛江さん!!!」

僕は、狛江さんに土下座まがいの謝罪アクションをするはめになっていた。