「いいえ。『雌犬』でなく、附帯世界執行…
「いいから。自分、何も言わなくていいから。とにかく自分はさ、そのガキに迷惑かけられてるんだよね――三上君
「う、うん。まあ、そうだね」
「えぇ!?迷惑だなんて、ひどいですぅうう

そう……そうだよな
ちょっと苛ついた風に目を眇めて、狛江さんが頭を振った。

僕は、思い出していた。

狛江さんは、近隣でこう呼ばれている人なのだった。
バイオレンスJK
もしくは、
麗レイコの生まれ変わり』と。
まあ、麗レイコ――僕の母さんはまだ死んでないんだけど(性が変わっただけで)。

武勇伝は数知れず。
僕も一度、狛江さん喧嘩しているところを見たことがあるけど、そのときは自転車を武器に、一人十人と戦っていた。
結果は、もちろん狛江さんの圧勝だ。

もう一度、頭を振って、狛江さんが言った。
「自分さ、助けてあげるから待ってて――三上君」

狛江さんが、こちらに向けて歩き出す
しかし……

「?」

しかし……

「?」

しかし、

「……なんだこりゃ?」

こちらに向かって歩いてる狛江さん。
狛江さん自身は歩いてるつもりなんだろうけど、僕の側からは、同じ場所で足踏みしているようにしか見えなかった。

つまり、自販機の前より、こっちに進めていない
さっきの僕も、きっとあんな感じだったに違いない。

ところでだ――自分の胸元に向けて、僕は訊ねた

「メルティオーレさんは、どうしてこんなことしてるの?
「こんなことってぇ……こんなことですかぁ?

って言いながら、人差し指で僕の胸をクリクリって……違う!

「いや、そんなんじゃなくて、どうして、僕の所に来て、こんな……」
そ・れ・じゃ・あ――こんなことぉ?」
「いや、違う!シャツの合わせ目にをあてて、熱い息を吹き込んだりとか、甘い香りが首の所から直接鼻のあたりまで漏れ出てきてたまらんとか、そういうんじゃないから!」
ええぇ~?
「いや、じゃ、その、一番単純に聞きます!メルティオーレさんは、どういった理由で、僕に会いに来たんですか?」
「うーん、それはぁ。倫太さんが、
僕が?
「にんげ…」

がらがしゃん!

メルティオーレの声を遮ったのは、狛江さんの立てた音だった。
正確には、彼女の足下に転がる、ジュースの缶や、ペットボトルが立てた音だ。
狛江さんが、自販機の脇のゴミ箱を倒して、中身をアスファルト散乱させたのだった。

「おおぅ」

ちょっと驚いた様子を見ると、わざとゴミ箱を倒したわけではないらしい。
そこまでは、なんとか理解できた。
でも、どうして?
どうして、狛江さんは……

「へええ……そういうこと?(ニヤリ)」

……どうして、みるみる笑顔になっていくんだろう?